【研究活性化計画】バイオ分野に新たな光を当てるエキシマランプ

【研究活性化計画】バイオ分野に新たな光を当てるエキシマランプ

エキシマランプは、波長172nmの真空紫外光(Vacuum Ultra Violet; VUV)を発する光源だ。その高エネルギー光は、半導体やガラスの洗浄、また各種ポリマーの表面改質など、主に工業用途に利用されてきた。ウシオ電機株式会社は、生命科学や農学、医学、薬学といった分野でこの光源の新たな活用法を見出すべく、研究者との連携体制を作ろうとしている。

Min Excimer

172nmの紫外線が引き起こす多様な光化学反応

VUVは、大気中に放射されるとそのエネルギーの大部分が酸素に吸収される。そのため、酸素からオゾンを高効率に生成、あるいは直接酸素を分解して活性酸素O(1D)を生み出し、強力な酸化反応を引き起こす。同じく活性酸素を生み出す光としては、殺菌灯に使われる水銀ランプがある。これは185nmの光で酸素からオゾンを生成し、254nmの光でオゾンを分解して活性酸素を作るものだ。

エキシマランプの光は大気中では光源から8mm離れるまでにエネルギーの約90%が酸素によって吸収される。そのため、有効距離は水銀ランプと比較して極めて短く、「真空紫外光」と呼ばれる所以となっている。だが逆に、それは強力な化学反応力の裏返しでもあり、活性酸素の生成効率は水銀ランプの20倍にもなる。この酸化力と、高エネルギーの光そのものによって、有機物を分解、酸化揮発させることで、エキシマランプは表面の洗浄に用いられているのだ。またポリマー表面のCH3基を酸化させてOH基に変換するため、親水化といった改質にも利用されている。

エキシマランプによる超親水化

先駆者が拓くバイオ分野への応用

エキシマランプによる表面改質は、研究の中でどのような活用が可能だろうか。その一例が、細胞の接着性コントロールに関する研究だ。この研究は、超疎水性(水の接触角が150°以上)のコーティングを施したディッシュの一部にVUVを当てて親水化することにより、接着性の培養細胞の付着領域を制限できることを示した1)。さらに照射時間に依存して水の接触角が変わることから、細胞接着のパターニングを多様にコントロールできる可能性を示している。

また、VUVを利用して低温でマイクロ流路チップを作成できることを示した報告もある2)。マイクロ流路を作るための2枚のアクリル樹脂を、あらかじめ5.0×10-2MPaの酸素を充填したチャンバー内で30分間VUVを照射する。それらを20°C環境中で圧着すると、無処理のものを95°Cで圧着した場合の2倍以上の接着強度となったのだ。

小型化によりラボの中へ

洗浄、親水化、密着性向上、架橋、重合、マイクロパターニング、そしてオゾン生成など、エキシマランプによる高エネルギー光が起こす光化学反応の用途は多岐にわたる。これまで工業用途に大きな光源が作られてきたが、A5サイズのMin-Excimerなど、研究用途の小型ランプも新たに開発された。ディッシュやスライドガラスの表面改質、微小電極の成形、あるいは流路表面の加工など、細胞や微生物培養、マイクロリアクター等への応用など、光化学反応の適用先は数多くあるはずだ。自らのテーマの中で活用方法が思い浮かぶ研究者は、この新たな光の下へ手を伸ばしてみてはいかがだろうか。