アイデアぶつかる仮想空間 渋江 唯司

アイデアぶつかる仮想空間 渋江 唯司

平成24年度に日本全国で起こった交通事故は、国土交通省の統計データによると665、138件にものぼるといいます。
平均すれば1日に1800件以上の事故が起こっている計算です。
中には自動車同士の悲惨な事故もあり、件数を減らすことはもちろん、起こってしまった事故の被害を抑える工夫が必要になっています。

危ない実験はシミュレーションにおまかせ

衝突事故が起こったとき、私たちのからだにはどのような力が加わり、何が起こっているのでしょうか。
ほんの一瞬のできごとなので、その詳細を把握することはなかなかできません。
まったく同じ条件で再衝突させてみることができればいいのですが、調べるたびに車体を衝突させていては、車が何台あっても足りません。
なにより、運転者の命が危険にさらされるような検証実験をくり返すわけにはいきません。
そこで力を発揮するのが、シミュレーションなのです。

見えてきた衝突の瞬間

近畿大学の渋江唯司さんは、電車やバス、乗用車の車体を細かく計測し、仮想空間に車体を再現して衝突事故の瞬間に何が起こっているのかを解析しています。
車が衝突したとき、もしシートベルトをしめずに後部座席に座っていたら、からだは衝撃で前方に飛ばされてしまうでしょう。
その瞬間を調べるために、モーションセンサーをつけた学生を研究室につくった衝突 実験用装置に乗せて、ゆっくりした速度で実験用の壁に衝突させ、からだがどのように動いているの か解析します。

再現すると、予防策が見えてくる

実際の人体の動きがわかったら、シミュレーションによる再現にトライします。
ゆっくりした速度での再現に成功したら、今度はシミュレーションだけで実際の速度で衝突現象を再現します。
すると、まずはひざが前の座席に当たり、そこを軸にからだが前のめりに回転することで、目の前にあるヘッドレストに頭をぶつけ、その反動でからだが元の座席に跳ね返るという結果が得られました。
シミュレーション手法をつくり上げたことで、ぶつかる場所やタイミング、そのときにかかる負荷などを詳しくみることができるようになったのです。

「衝突の瞬間のからだの動きや変化を正確に再現することが最初の目標ですね」と、渋江さんは言います。
「それができれば、解析結果を元に『ひざがぶつかる部分のクッション性を高めよう』など、被害を小さくするためのアイデアを導き出すこともできるはず」。
研究室でくり広げられる意見の衝突から生まれたアイデアが、事故の被害を抑え、より安全な社会へとつながっていくのです。
(文・石澤敏洋)

取材協力:近畿大学生物理工学部人間工学科教授渋江唯司さん