【研究活性化計画】低コストのスクリーニングが創薬を加速する
新規化合物が新薬として世に出る確率は、2万分の1ほどといわれる。その少数の「当たり」を見つけるため、前臨床段階ではモデル動物としてマウスを用いて効能や薬物動態の試験が行われている。どうしてもコストと時間がかかるこのステップを、カイコを用いて低コスト化、加速しようとしている東京大学大学院薬学系研究科微生物薬品化学教室の浜本洋助教にお話を伺った。
病態モデル動物としてのカイコ
カイコは絹糸を作る産業用の生物として、古くから家畜化されてきた。さらに、飼育が簡便、逃げ出さない、体が大きい、大量に確保できるといった利点から実験動物としても利用され、遺伝学やタンパク質生産、フェロモンの研究などに大きく貢献してきた。浜本氏が所属する研究グループ(研究主宰者:関水和久教授)は、そこに「病態モデル動物としてのカイコ」という新たな価値を見出した。カイコも哺乳類と同じように細菌に感染し、適切な抗生物質の投与による治療効果が認められる1)。浜本氏らは、様々な感染実験と薬物動態試験により、カイコ幼虫の感染モデルによる治療有効量が哺乳動物とほぼ一致していることを示した2)。これらの発見から、関水研では初期スクリーニングの際にカイコをモデル動物としてコストダウンを図り、創薬研究を加速するという戦略を提唱している。
コストと時間を削減して新薬に一歩近づく
カイコを用いたスクリーニングで、浜本氏は約15,000株の微生物抽出物の中から抗生物質「カイコシン」を発見した。スクリーニングは、膨大な数の化合物の中から、効能の高いものを見つけ出す地道な作業。カイコはマウスと比較するとエサが少量で済み、小さなスペースで飼育でき、成長が早いために管理費が1/100程度で済む。また取り扱いが楽なため、慣れれば1時間に200匹注射するなど大量に使用することが可能で、スクリーニングには最適だという。現在、研究室では病原性に関わる因子や、化合物の薬効に関わるタンパク質などを探索している。活性のある画分をある程度絞り込んでから質量分析により同定を行う、という作業の繰り返しの中で利用しているのがBioGARAGEの質量分析サービスだ。「他と比較して安価なので、見つけたものをとりあえず同定してみよう、と気軽に出せるようになりました」。
ほとんど全ての疾患をカバー
カイコとヒトの免疫系は異なるが、貪食作用を示す細胞や、病原体を察知するToll receptorを発現する細胞を保持している。さらに、脳や神経系、筋肉、肝臓に相当する臓器もある。これらの共通点から、糖尿病モデルやがんモデルとしても利用が始まっている。さらに、神経変性モデルの構築も可能と考えられており、カイコを用いた創薬研究は今後さらなる飛躍が期待される。
1)Kaito C., et al. Microbial Pathogenesis.(2002), 32, 183-190
2)Hamamoto H., et al. Quantitative evaluation of the therapeutic effects of antibiotics using silkworms infected with human pathogenic microorganisms. Antimicrob Agents Chemother, (2004), 48(3), 774-779