「誰でも」運転できる自動車で出かけよう 大前 学

「誰でも」運転できる自動車で出かけよう 大前 学

車に乗り込んだら、行き先を告げるだけで目的地まで連れて行ってくれる「自動運転車」。ケガをしている人やお年寄りなど、運転したいけどできない人こそが、車を「運転できる」ようになったら、もっといろいろな場所に自由に出かけられるようになると思いませんか?

コンピュータが、周りを見て運転する車

自動運転を実現するには、まず、車自身が周囲の様子を知ることができるようにする必要があります。
進路上の障害物や前を走る車の様子の検出には、レンジセンサーやカメラなどがよく使われています。
レンジセンサーは、レーザー光やミリ波と呼ばれる電波を照射し、その反射を検出することで周囲の物体との距離を計測します。
また、GPS受信機から得られた車の位置情報と地図情報を照合すること、もしくはカメラで道路上の白線を検出することで、走行するべき車線と車の位置の関係を認識します。
すると、これらの装置が接続されているコンピュータが、計算結果をもとにアクセルやブレーキ、ハンドルへと運転指示を出します。
実際の道路や地図などを見て得た情報を、実際に手でハンドルを、足でアクセルを踏むという行為に変える人間の頭を、コンピュータに置き換えたものが自動運転車なのです。

「頭」は車の外に置こう

しかし、すべての車に「頭」を取り付けるにはお金も時間もかかり、なかなか実現できません。
慶應義塾大学の大前学さんは、運転の仕方を考える「頭」は車の外に出し、車には、外の「頭」から運転指示を受けるための通信機さえあればよいのでは、と考えています。
今、自動車はエンジン、ブレーキはもちろん、ハンドルの回転からドアの開閉まですべて電子制御されているため、外から指示があればその通りに動くしくみをつくるのは簡単です。
大前さんは、車に指示を出すために必要な計算式を作成し、その式を解くためのプラグラムを組み、得られた情報を、受信機をつけた車に発信して実際に動かしてみます。
本当に指示通りに車が動くか、何度もくり返して、より精度の高い「頭」をつくり上げていきます。

誰でも「運転できる」車を目指して

「今ある運転支援システムでは、もともと車に乗れない人は最後まで車に乗ることができません」と大前さん。
自動運転技術が発展することで、たとえば、自動運転の車で駅まで行って、電車に乗る。
乗り捨てた車は自動で家まで戻ってくれて、携帯電話やスマートフォンで呼び出せば、駅まで迎えに来てくれる——自動運転車と電車などの交通機関を組み合わせることで、新しい車との付き合い方が提案できます。
車を運転できない人でも車を動かして、自由に出かけることができるようになる、そんな未来が実現するかもしれません。 (文・上野裕子)

取材協力:慶應義塾大学環境情報学部教授大前学さん