− 創造性についての対談− 学校では教えてくれない、 発想のトレーニング方法
イノベーションを起こす。クリエイティビティを発揮する―。何か「新しいこと」を考え出し、やってみたいという人は意外と多い。しかし、「どうやったらそれができるのだろうか」。学校でも教えてくれない、発想のしくみとトレーニングの方法を著した本『創造性についての対話』の著者、松木暉さんと、サイエンスを軸に新しい価値を創出し続ける株式会社リバネスの代表、丸幸弘との対談が実現した。
|松木 暉 まつきひかる さん プロフィール|
等価変換創造学会代表幹事、NPO法人日本創造力開発センター(JCDC)副理事長1943年生まれ。広島県出身。同志社大学工学部卒業、同大学院修了。追手門学院大手前中高教諭(1976年~ 2005年)。共著に、『都市文明の未来像―現代創造理論による人類史の危機の究明と克服』(市川亀久彌・松木暉 著、産業能率短期大学出版部 発行、1975年) および『図解でわかる等価変換理論―技術開発に役立つ70のポイント』(等価変換創造学会編、日刊工業新聞社 発行、2005年)がある。
|丸幸弘 まるゆきひろ プロフィール|
株式会社リバネス 代表取締役CEO
2002年6月、東大修士課程在学中にリバネスを設立、先端科学実験教室を開始。アントレプレナーオブザイヤーセミファイナリスト。店産店消の植物工場でグッドデザイン賞を受賞。2012年12月マザーズに上場したユーグレナの技術顧問等、10社以上のベンチャーの立ち上げに携わる。博士(農学)。
トライアル&エラーで、イノベーションを起こしてきた
松木 今まで、いろんな人がたくさんの仕事をしているじゃないですか。まさに、「イノベーション」と呼べるようなことも。でも、創造性について学んだ人なんていないんですよ。学んでいなくても、みんなちゃんとできているわけです。
丸 それが不思議なんです。僕は、大学に講演で呼ばれたときも、リバネスの仕事や植物工場の話をよくするんですが、学生に必ず聞かれるんですよ。「どうやって、それをやろうと思ったんですか?」「どうしてそういう新しいイノベーションを起こせているんですか?」って。僕は「とにかくやってみないと、そんなのわかんないんだよ」って言っちゃうんですけど、その答えが、この本にあるんじゃ
ないかと思っているんです。
松木 これまでに新しいものを生み出してきた人たちもみな、トライアル&エラーで非常に努力しているんです。我々がやっているのは、それを分析すること。「昔の偉い人たちは、基本的にこういう考え方に則っていたようだ。だからそれを理解し練習すれば、もっと要領よく発想できますよ」というのが「等価変換理論」なんです。私の恩師である故・市川亀久彌先生が、「創造性について調べないとあかん」といろいろ調べてみた結果……
丸 共通していることがあった。
松木 要は「アナロジー*」なんですよ。昔の大発見や大発明を調べてみたら、ほとんどがそれだった。たとえば、ムササビの滑空を分析すれば、同じ滑空飛行のハンググライダーの開発ができます。
「じゃあ、アナロジーで新しいことができるんだ!」と自信を持ったのはいいけれど、結局やり方がわからない、というのが問題だったわけです。試行錯誤するから、うまくいったりいかなかったりする。そこで、うまくいったアナロジーの思考過程を詳しく分析し、抽出した基本的な考え方を記号化して「等価変換理論」と名付けたんです。
問題を提起せよ
松木 私が書いた本の中では比較的、「問題の提起」というところが重要なんです。「これ」が問題だね、「これ」をテーマに考えたほうがいいね、というのが出発点なんですよ。
丸 問題を提起する力が重要なんですね。実は、リバネスで新しい価値を創造するために大切な「QPMIサイクル」と呼んでいるものがあるんです。QPMIのQはQuestion(クエスチョン)のQ、Questionをしっかり定義することがスタートなんですね。イノベーションを起こすためには。さらに、クオリティの高いQuestionを数多く出して、その中から、自分がPassion(パッション)を持って取り掛かれるQuestionを選び出
してメンバーと共有するんです。個人が持っていたQuestion、PassionをチームのMission(ミッション)に置き換えることができたら、勝手にInnovation(イノベーション)が起こる。このサイクルの中で一番重要なのは、問題をちゃんと定義できるか、その力です。これを、11年前に会社を立ち上げたときから言っていたんですが、この本を読んで、きちんと問題を把握し、定義できることってすごく大事だな、と改めて思いました。
松木 疑問点を出し、こういうものをやったらどうかという個人がいて、それを実行できるというところが、リバネスの強みなんですね。
発想の練習をしよう
松木 丸さん、リバネスでいろいろ新しいことをしているでしょ。たとえば、植物工場は都会のお店と地方の工場をくっつけただけ、とか言うてらっしゃったけど、丸さんがこれまで研究されてきた生物学のいろんな知識が基本になっていると思うんですよ。
丸 そうかもしれませんね。僕、生物学と会社の経営が完全にリンクしちゃっているんですよ。会社でも、「がん化する」という言葉をよく使います。組織はがん化すると「死ぬ」んですよ。だから、がんになるようなものを組織に入れない、がんになったときにはできるだけ早く切り離す、という機能があれば、組織は維持できるんですよね。会社も生物と同じしくみで、永く生き延びることができるんです。僕は、会社も「死ぬ」ものだと思っています。僕が死んだら、「今の」会社ではなくなるけれど、理念はDNAとして残って、次の世代に持っていける。僕らのDNAは受け継いでいるけれども、違う身体を持った違う会社になるだろうって、そうなることを見据えて会社を運営してこうって、実はスタートのときから話しているんです。これはもしかしたら究極の、僕が生物学と経営学を重ね合わせて発見した1つのできごとかな。うちのスタッフは理系が多いので、みんな理解しやすいみたいです。
松木 生物学をやっておられた方はたくさんいるわけで、でも、みなさんが丸さんと同じようにやっているわけじゃない。人から言われてわかるのと、自分でわかるのは違います。やっぱり、問題意識があるから、生物学と融合して何か事業化できるものがないかな、と常に思っているから、いろいろなものに気づくんでしょうね。
丸 これまでトライアル&エラーでやってきて、本当にそれが正しいかどうかわからないでいたんだけれど、これを見て「今までやってきたのは、正しかったんだ、よかった」って思ったんです。この本で「等価変換理論」という言葉に初めて触れて、そんな言葉があったんだ、自然にやっていたな、というのが正直なところなんですけれども、ちゃんとこうやって理論になって、教科書になっているんですね。もうちょっと早く、知りたかったな(笑)。
(取材・構成 磯貝 里子)