町工場の力を、あなたの創造力に 福山大学生命工学部山口泰典教授・株式会社浜野製作所石川北斗さん

町工場の力を、あなたの創造力に 福山大学生命工学部山口泰典教授・株式会社浜野製作所石川北斗さん

前号で掲載した「日常の何気ない作業をちょっと楽にするオーダーメイド器具が欲しい─そんな要望有りませんか?」という記事に興味を持ち、オーダーメイドの実験トレイの相談をくれたのが福山大学の山口先生。実際にトレイを製作した浜野製作所の石川さんとともに、実験機器に対する要望を伺った。

石川:そもそもどういった経緯でオリジナルトレイを作りたいと思ったのですか?

山口:私は以前から細胞を扱う研究をしています。日々、大量の細胞をインキュベーターという機器の中で培養しているんですが、その機器に入れるためのトレイが重い上にたわんでしまう。片手でインキュベーターの扉を開けて、もう一方の手で培養シャーレを載せたトレイを出し入れするんですが、重いと腕が震えてサンプルがこぼれそうになってしまう。これを改善できないかと思って相談をしたんです。

石川:たわみの原因は自重にあったので、材質を軽量なアルミ合金に変えるだけでたわまないようにできました。元々のトレイの材質である銅を含有したステンレスは、抗菌性という特徴を持つ反面、非常に重い材質です。今回使用したアルミ合金に抗菌性を持たせる処理を施すことも可能でしたが、コストが上がってしまうので処理を行わないことをご提案しました。

山口:汚れが気になったときの滅菌処理なら大学でも簡単にできますからね。コストや必要性を相談しながら作れるのはありがたいです。

発注から共同開発へ

石川:ちなみに地元の企業に相談されたりはしなかったんですか?

山口:実は同じような相談を地元の企業にしたことがあるんですが、なかなか対応してくれなかったんです。広島県福山市はあまり町工場も多くないので、相談をする相手を探すのにも苦労します。しかしながら遠方の東京や大阪の町工場とつながる機会がなかったので、今回のご縁はとてもありがたいです。過去には、地場の企業数社と連携し、新しい実験装置の開発に挑戦したこともありました。経産省から2年間で約4000万円の予算をもらい、温水方式の定量PCRという実験ができる装置を作ったんです。装置自体は良いものができたのですが、市場調査ができるようなメンバーがいなかったため、市場規模や利益が見えない中で実際に製造・販売するリスクを取ってくれる企業が出てこず今のところ商品化できていない状態です。

石川:弊社でも複数の町工場とともに東京海洋大学・芝浦工業大学・JAMSTECと連携した深海探査船の開発をやっています。今回のトレイのようなちょっとしたものづくりから、一緒にアイデアを形にしていくものづくりまで、ぜひ今後も気軽にご相談ください。

山口先生からのご相談

インタビューの中で、山口先生から受け取った追加のご要望について紹介します。

シャーレを曇らないようにできないか?

培養したシャーレをインキュベーターから出すと、インキュベーター内外の温度差によりシャーレのフタの内側に水滴がついて曇ってしまう。位相差顕微鏡で観察を行う際に、精密な光学系が曇りで乱され解像度が悪くなって見えにくくなるのでなんとかできないだろうか。

細胞を簡単に剥がす装置は作れないか?

培養した細胞を使って実験する際に、シャーレから培養細胞を剥す必要がある。経験的に、酵素処理と併用して培養シャーレを温めながら細かい振動を与えて揺らすと培養細胞にストレスがかかる酵素処理時間を短縮して剥がせるので、それを簡単にできる装置を作れないだろうか。

インキュベーターのドアを半自動で閉めたい

インキュベーターのドアが、ゆっくりと閉めないと確実にしまってくれない。冷蔵庫のドアのように弱い力でも一定の位置まで閉まると自動的に最後まで閉まるようにできないだろうか。

 

 

上記の要望は、現在、浜野製作所と対策を検討中!

ENG GARAGE では、研究者の何気ない不満を解消します。 お気軽にご相談ください。

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