工学人材の為の起業資金の集め方

工学人材の為の起業資金の集め方

クラウドサービスの普及やクラウドファンディングの出現、そして 3D プリンタや FabLab によるものづくりに対するハードルの低下により、近年、起業に必要な初 期投資が大幅に下がり、起業に向けた環境が整備されつつある。

すでにシリコンバレー では、投資の流れが IT からハードウェアへとシフトし始め、体に掛けて使うフィッ トネス用センサーを開発した「Fitbit」や、スマート・ウォッチを開発し、Google 社に買収された WIMM Labs など、新しいものづくりベンチャーが続々と誕生している。

日本ではまだまだ成功したものづくりベンチャーの事例は生まれていないが、 この流れは近い将来確実に日本にも到来するはずだ。 そこで本特集では、広く工学分野で活用できる起業資金の集め方について、様々な 支援ツールと実際に活用した事例をもとに紹介する。

増加するシード投資

一般的にベンチャー企業は事業規模に応じて「シード」、「アーリー」、「ミドル(エクスパンション)」、「レイター」の4つのステージに分類される。

事業規模に応じてステージが上昇し、株式市場への上場、もしくは企業買収により起業者や投資家が利益を得るという流れが一般的だ。

ベンチャー企業への投資はリーマンショック前後で急激に下落したものの、2009年以降回復傾向を見せている。

さらに、シード段階での投資が増加傾向にあり、多くのベンチャーが起業時に抱える資金調達の課題を解決するインフラが整いつつある。

新たな資金調達手段「クラウドファンディング」

近年、急速に注目を高め、増加するシード投資を後押ししているのが「クラウドファンディング」だ。クラウドファンディングは小規模な事業者や個人が、実現したいアイデアをインターネット上で提示し、それに対し不特定多数の投資家から出資を募る仕組みである。欧米を中心に急速に拡大しているこの仕組みは、2012年の時点で、世界全体で約28億ドルの投資規模まで成長している。代表的なサイトとして、アメリカの「Kickstarter」、「RocketHub」、国内では「CAMPFIRE」があるが、まだまだ日本ではビジネスで活用されている事例は少ない。しかしながら世界では個人向け3Dプリンタ製作に約300万ドル集まったケースも生まれており、今後日本でも定着していくことが予想される。

変化するベンチャーキャピタル

ベンチャー企業が事業を拡大していく際に、資金面でバックアップを行うのがベンチャーキャピタルだ。ベンチャーキャピタルは企業に対し株式を取得するかたちで資金を提供し、最終的に上場もしくはM&Aにてリターンを得るかたちの投資を行っている。近年増加するシード・アーリー段階の投資には、2種類の新しいベンチャーキャピタルが関わっている。

コーポレートベンチャーキャピタル

1つ目はコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)と呼ばれる、大企業からベンチャー企業に対する資金提供である。海外のICT産業を中心に活発化しているこの仕組みは、ベンチャー企業に開発環境と合わせて資金等も提供することで、社内では生まれにくい斬新なサービス開発を促進させ、その上で自社サービスの強化につなげようという取り組みだ。米国では以前よりCVCが浸透しており、主要ICT関連企業が設立し自らのシステム強化等に活用している。現在、多くの大企業では自社のみでの研究開発に限界を感じ、オープンイノベーションを推進する姿勢が見え始めている。ICT分野で始まったこの流れは、今後他分野へと浸透していくことだろう。

シードアクセラレーター

2つ目は、資金提供に加えて経営面での支援を行うシードアクセラレーターという仕組みだ。一般的にシード段階のベンチャーの多くが、技術的な強みは持っているものの経営面でのノウハウを有しておらず、結果として資金計画や事業推進の仕組みを整えることができず、発展のスピードを阻害している場合が多い。シードアクセラレーターでは、シード段階の企業に対して、株式の数%~10%程度の取得を条件に200万円から500万円程度の小口資金を提供する。さらに3か月から6か月程度の期間で経営面でのアドバイス、投資家や取引先の紹介などを行う。複数の企業が同時期にプログラムに参加するシステムを取ることが多く、企業同士が交流し、切磋琢磨できる環境が設けられている点が特徴だ。プロトタイプを開発し、次のステージに移るための投資を受けることを目標に短期集中で事業を進めることで、成功率を高めることを狙っている。海外では、2005年頃にスタートした「YCombinator」、「Techstars」、「Seedcamp」が特に有名であり、ICT関係の企業を中心に投資・育成が積極的に行われている。また、近年シリコンバレーでは投資の流れがソフトウェアからハードウェアへと移りつつあり、ものづくり系のベンチャー企業も増加傾向にある。一方で、国内でも複数のシードアクセラレーターが活動を行っている。現在のところ主な投資先をICT関連の技術を持った企業に限定している機関が多いものの、11月にはリバネスがものづくり系ベンチャーへの投資・育成を行う「TechPlanter」の開始を発表するなど、今後はものづくり系のベンチャーへの支援も活発化していくだろう。

ビジネスプランコンテスト

少額ながら起業資金を獲得でき、さらに事業計画もブラッシュアップできるのが全国で開催されているビジネスプランコンテストだ。最近では、企業、大学、自治体など様々な機関でコンテストが開催されており、優勝すると平均的に20万円から50万円程度の賞金を手に入れることができるとともに、書類選考・プレゼンテーションという選考プロセスの中でアドバイスをもらうことができる。特にコンテストの中で注目を集めることができれば有識者とのネットワークも構築できるため、複数のビジネスプランコンテストに参加したのちに起業するケースも多い。ビジネスプランコンテストの多くは、ビジネスの種類を問わないものが多く、審査員の基準もそれぞれだ。だからこそ、テクノロジーにフォーカスした「テクノロジー&ビジネスプランコンテスト」やリバネスが行う「TechPlanグランプリ」、大学主催のビジネスプランコンテストなど、技術的な観点からの評価を受けることができるものを積極的に選ぶことがビジネスプランのブラッシュアップにつながっていく。

A-STEP(研究成果最適展開支援プログラム)

起業に向けて研究開発段階からチャレンジする場合には、JSTが実施するA-STEPの「起業挑戦ステージ」というプログラムが最適だ。シーズの実用化に向けて、大学発ベンチャー企業の設立に向けた研究開発を行うこのプログラムでは、研究者を対象にした3年間で最大1億5千万円の研究費と1500万円の起業支援経費を獲得できる「起業挑戦タイプ」と、若手研究者を対象にした3年間で4500万円の研究費と300万円の起業支援経費を獲得できる「起業挑戦タイプ(若手起業育成)」が用意されている。どちらも起業支援機関等との連携が必須となっているが、自分の研究成果をビジネス化したい場合には活用するとよいだろう。 ここで紹介した5つのアプローチは、どれかを選ばなければならないものではなく、組み合わせて活用することができる。10年前に比べ、起業を支援する環境は大幅に整いつつある。解決したい社会的課題や、研究成果を社会に生かしたい想いがあれば、これらのツールを活用することでその実現は近づくはずだ。