人と違うことをやる、 それが価値になる 藤本 徹

人と違うことをやる、 それが価値になる 藤本 徹

藤本 徹 さん 東京大学 大学総合教育研究センター 助教

学習に対するイメージを、自身の成長に欠かせない、楽しいものに変えたい。今やメディアを賑わすバズワードになった「ゲーミフィケーション」を通じて、新しい教育方法に果敢に挑む藤本さん。人と違うことに跳び込むマインドが彼のキャリアを形成した。

 

経験則を超える専門知を求めて

中学、高校と勉強が大嫌いだった。机に向かってひたすら教科書と向き合うスタイルの授業は性に合わない。学ぶことを楽しいと思え始めたのは、大学の授業でディベートやグループワークなど、自分が主体的に関われるスタイルの授業に参加するようになってから。学び方というものは多様で、その組み立て方によって効果や学び手が受ける印象が全く違うことを実感した。大学卒業後も社会人として教育に携わる中で、次第に経験則ではなく、教育方法について体系的に学びたいと思うようになる。2002年、藤本さんはアメリカのペンシルバニア州立大学へ留学。教育対象者を分析し、どのような目的設定や手法で教えるかを体系的に学ぶ「教授システム学」は同校の持つ全米トップレベルのプログラムの1つ。研究者としての第一歩を踏み出した。

 

ゲームで教育?!

博士課程在学中に運命の出会いが起こる。当時、アメリカでは軍事訓練や世界を飢餓から救うための食糧支援シミュレーションなど、「シリアスゲーム」と呼ばれるゲームが教育手法の1つとして活用され始めたところだった。「ゲームで教育」、様々な教育手法についてリサーチしていた藤本さんは、この分野に飛び込んだ。当時、ゲームの教育への活用は、日本では研究分野としてあまり注目されていなかった。つまり、ここで藤本さんは研究者の武器である「人と異なる」という価値を手にすることになる。当時は国際会議へ参加しても、日本人は自分1人だけという状態。そこで、積極的に研究者コミュニティのメーリングリストに参加し、自ら日本でのゲーム研究の動向を発信し続けた。すると、日本のゲーム研究事情に詳しい研究者として、海外の研究者が自然に質問してくるようになった。発信を続けたことで、自分が日本と世界をつなぐゲーム教育のパイプ役になっていた。

 

自分で分野を創っていく

ゲームのエッセンスは楽しさ、参加者が夢中になってパフォーマンスをあげるということ。藤本さんはゲーム自体の仕組みを利用して、もっと社会を良くすることができると考えている。自身の専門である教育分野では顕著な例が現れてきた。アメリカでは、中学高校のカリキュラム全てをゲーム化した事例がある。しかし、まだ日本においては、ゲームを使った教育は多くの人にとって新し過ぎ人と違うことをやる、
それが価値になる学習に対するイメージを、自身の成長に欠かせない、楽しいものに変えたい。今やメディアを賑わすバズワードになった「ゲーミフィケーション」を通じて、新しい教育方法に果敢に挑む藤本さん。人と違うことに跳び込むマインドが彼のキャリアを形成した。る流れだ。学術的なバックグラウンドをもってゲームの活用を議論する場所はまだまだ足りない。「もちろん、何でもゲームにすればいいというわけではありません。ゲームを使うとより効果的に学ぶことができるものと、そうではないものもあります。」と彼は言う。今も研究は試行錯誤だ。「間違っても、非効率的でもいいから覚悟を持って進む
ことが大事」。フロンティアを進むのは、常にそうやって、飛び込んでいく研究者なのだ。

(文・武田 隆太)

 

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プロフィール
藤本 徹 さん
東京大学 大学総合教育研究センター 助教
1973年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。民間企業を経て、ペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。博士(Ph.D. in Instructional Systems)。2013年より現職。東京工芸大学芸術学
部非常勤講師等を兼務。専門は教授システム学。特にゲームの教育利用や社会的応用の研究、シリアスゲーム開発者教育に従事している。ウェブサイト Serious Games Japan の発起人。
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