学生も次を描ける活動をしよう

学生も次を描ける活動をしよう

バイオテクノロジーの世界では大学生、大学院生のための合成生物学の世界大会がある。

iGEMというその大会は、本部から送られた遺伝子パーツや、独自で考えたパーツを材料にして微生物への遺伝子組換えにより新しい生物デバイスを設計し、その完成度やプレゼンテーションで競う、という活動だ。光る遺伝子を組み込んで生物時計などのデバイスをつくったり、新しい手法を開発したり、学部生といえども大学院生レベルのバイオテクノロジーの技術が求められる。日本にも2012年までに数十の大学の大学生たちがサークルを組んで、活動している。リバネスではiGEMに参加する学生の活動をサポートしたり、試薬企業や科学機器企業の協賛を集めるところに協力したりしているので、先日、スポンサー企業も集めてリバネスの知識創業研究センターで2013年度の活動報告をしてもらった。

東大、東工大、神奈川工科大学、東京農工大の関東圏で活動してきた大学の学生たち。

どれもユニークなアイデアで生物デバイスをつくっていて、そのアイデアはどれも素晴らしかったのだが、

ひと通り発表を終えて必ず聞かれたのが

「で、それは次にどうつながるの?」ということ。

学部生しかいない中で、研究施設や試薬、渡航の問題など、様々な課題をクリアしながら、一生懸命やってきたことは絶対に今後の自分にとっての財産になる。バイオテクノロジーの技術についても、学部生ながら高度な技術について一生懸命学んできたことはすばらしいことだ。

でも、一点だけさらに厳しいことを求めるとすれば、

合成生物学の世界は本来「自分の経験になってよかった」という研究ではないはずだ、ということ。というか研究者ならみんなそうだろう。現にiGEMの評価でも「社会とのリンク・ビジョン」が求められているような感じを受けた。東工大は今年、世界大会で入賞を果たしたが、上位に毎年のように食い込んでいる大学は実際に考えたアイデアでつくった生物がどれだけ市場性があるのか、ということを調査し、リンクした発表を行っているという。

何のためにそれをやっているのか。今年は何を目指して、来年はどうするのか。そんな設計ができることが研究者としての真の一歩だろう。

逆に、そこまで考えて活動できたら、学部生ながら誰にも負けない体験になる。就職活動するにしたって、研究者になるにしたって、そのビジョンを描いた上での会話ができる人は強い、といろんな学生を見ていて思う。

そしてきっとそれはリバネスのような企業がサポートできることなのだろうと思う。

「若手研究者応援プロジェクト」という冠をつけていると、リバネスにはたくさんの学生団体からの支援の依頼がくる。でも、持続可能な社会の仕組みをつくりたい。というビジョンで活動している立場で言わせてもらうと、「学生の思い出づくり」にしかならない活動には支援ができない。より良い研究者と社会の関係、研究を加速していける仕組み、を一緒に考えるくらいのことを、やっていきたいから、若手研究者のチャレンジに支援をしているのだ。もちろん失敗や予定どおり行かないことがダメなのではない。たとえそうなったとしても、未来づくり、という視点で活動している人たちなのか、が知りたい。

iGEMとの次の活動だが、今回報告を受けて、学部生、という属性で研究活動をすることの難しさを非常に課題だと感じた。

学部生同士でなかなか継承できない技術の指導や、理解のある研究室の先生や学生実習室という環境を間借りして行う実験など、学部生、という属性で研究をしたい人にとって、大学という環境は現状ではまだなかなか使い勝手が良くないようだ。

リバネスでは知識創業研究センターができたので、iGEMという大学を超えて大会に参加するチーム同士が交流し、技術を交換し、試薬や環境の支援が受けられる場所として、使っていけるのではないか、と感じた。やる気のある学部生が環境の壁でスキルを向上する機会が損なわれることは大きな損失だ。そして前述の、社会とのリンクのさせ方やプレゼンテーションの見せ方などサポートできる部分は多いだろう。

若手研究者が未来に向かって技術や研究コンセプトを磨く場所をつくる。その新しい構想に、わくわくできた発表会だった。