マイクロ波で環境にやさしい化学をつくり出せ 岡田 豊
生命科学部 応用化学科 岡田豊 教授
身近なプラスチック製品や薬を製造する化学工業は,便利さを生み出す反面,地球環境へ大きな負担をかけています。そのため,環境問題が深刻化する近年では,製造から廃棄まで環境への影響を最小限に抑える「グリーンケミストリー」への転換が強く求められています。
救世主は,電子レンジ!?
化学反応を進めるには,環境に有害な触媒や100℃以上の高温を用いることがよくあります。特に工業利用では,石油などを大量に燃焼させ,地球温暖化の一因となってしまいます。化学者として,環境への影響を気にしていた岡田先生は,10年前のある学会で画期的な研究に出会いました。なんと,電子レンジで使われる「マイクロ波」が,高温環境や触媒がなくても,短時間で反応を進められるというのです。
この夢のような話に興味を持った先生は,さっそく実験をしてみました。すると,五員環(C5H5)2枚が,鉄イオン(Fe2+)をサンドイッチ状に挟んだ形の「フェロセン」を含む反応に有効だとわかりました。五員環の1枚をベンゼン環(C6H6)に置換する反応で,2時間かかる実験がたったの2分。驚くべきことに,80℃で2時間加熱というエネルギーを削減できたのです。
しくみを解明すれば,「速く進む反応」が探せる
大きな可能性を秘めたマイクロ波ですが,化学反応を促進させるしくみが,まだわかっていません。反応メカニズムの解析を専門とする先生は,電子レンジで水分子を温めるのと同様に,マイクロ波がフェロセン分子に当たることで,「スーパーヒーティング」という局所的に一瞬数千℃にもなる現象が起こっていると考えています。水分子のようにプラスとマイナスに分極した化合物は,マイクロ波の磁力によって一方向に向こうとする際,マイクロ波の変化に追従できなくなり,エネルギーを吸収します。そのエネルギーが,運動エネルギーに変換されて極度の高温が生まれるのです。フェロセンも分極しているため,こう予測しているのですが,もし正確にこのしくみを解明できれば,促進効果がある化学反応を他にも探索できるかもしれません。
マイクロ波を環境技術の主役へ!
「化学の魅力は,効率のよい反応を発見すれば,世界中で工業的に利用できること」と語る先生。しくみの解明だけでなく,表面から2cmほどしか内部に届かないマイクロ波を工業的に活用するため,細い筒の中を流動させながら反応させる研究にも着手しています。しくみの解明にも工業化にも,まだ課題は残っていますが「発見次第で,ひとつの研究室からでも,世界を変えることができる」と,今日もフラスコを眺めています。
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