知恵を結集した複合センサで、土砂崩れから人々を守れ 深川良一
理工学部 都市システム工学科 深川良一 教授
国土の7割が山地で,台風や地震の多い日本では,年に平均1000件もの土砂崩れが発生しています。さらに,今後崩れる恐れのある斜面は,約52万か所ともいわれ,予測や対策が必要とされています。しかし,土砂崩れがいつ起こるかを予測することは,実は非常に困難なのです。
土中の水から土砂崩れを予測する
土砂崩れは多くの場合,雨量を基準とした予測が行われていますが,土砂崩れに実際に関与するのは,雨量ではなく土中の水分量です。高精度の予測を実現するため,深川先生はまず土中の水分量を評価する「テンシオメータ」と呼ばれるセンサを実験室内の人工斜面に設置し,土中の水分状態と土砂崩れの相関を調べることにしました。すると,崩壊が起こるまでの水分変化に,ひとつの法則(パターン)を見つけることができました。そこで,実際の斜面でも水分量の変動をモニタリングし,その斜面での法則を見つけようと,すでに清水寺やいくつかの斜面で検証実験をはじめています。
予測の信頼性を上げる測定器開発
予測システムの信頼性をさらに上げるために,今のままでは不十分と考えた先生は,マイクロセンサの設計や活用を得意とする異分野の研究者と協力し,テンシオメータに代わる新たな測定器開発をはじめました。
まず,超音波の反射特性を利用して土中の水分状態を検出する超音波センサを新たに開発しました。このセンサは,地下水位の変化も検知でき,センサ自身の管の変形を計測し,斜面表層のわずかな動きも検知できる複合センサへと発展する可能性を秘めています。さらに,計測システム全体の無線化により,メンテナンスの手間を省き,多地点・広範囲での計測を可能にしました。このように,計測項目や計測箇所を増やすことで信頼性の高まった新しい測定器は,すでに実用化に向けての検証・改良が進められています。
分野の連携が防災の切り札
「分野が違うと新しいアイデアも出てきます。実際,異分野の研究者とディスカッションすることのほうが多いんです」と言う先生は,ジオメカトロニクスという土木と機械が融合した新しい分野の研究会も発足させています。
防災には,自然現象そのものへの対策以外にも,避難経路などの都市設計,非常時の情報通信,医療体制,心のケアなど,必要な視点が多岐に渡ります。これからもさまざまな分野と積極的に意見を交えた研究に取り組み,私たちを被災から守ろうとしているのです。
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