博士号の使い方 東京大学情報学環  鈴木高宏 准教授 vol.2

博士号の使い方 東京大学情報学環  鈴木高宏 准教授 vol.2

博士号の使い方 東京大学情報学環 鈴木高宏 准教授 vol.2

生産技術研究所 学際情報学府(兼担) (元)長崎県 産業労働部 政策監

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鈴木高宏さんは異色のキャリアを持つ研究者だ。東京大学の准教授ながら、長崎県庁職員として自治体で働いた経験を持つ。技術を社会に還元したい。社会に役立つものをかたちに残したい。という情熱があったから、研究室に閉じこもって開発をすることにとどまらず、社会と関わり続けた。それが異色の経歴につながったのだろう。本サイトでは2回にわけてそのユニークなキャリアに注目する。今回は2回目。

 研究者が自治体に出向

長崎県庁へ行ってみないかという話がでたのは、いくつかのプロジェクト研究を掛け持ちし、忙しくなっていた頃だった。離島にレンタルの電気自動車を走らせるプロジェクトのリーダーとして東大から一人派遣することになったのだ。長崎県五島列島という日本の西端にある離島、そこに100台以上の電気自動車(EV)を導入し、併せて先進の情報システム(ITS)を含むEVのための環境を構築することで人口減少に苦しむ地域を活性化しようという、挑戦的なプロジェクトだ。これまで鈴木さんは非専門家と積極的に関わってきたり、プロジェクトの間にこぼれ落ちてしまうような橋渡し的な研究を積極的に取り組んできた。その姿勢から、鈴木さんに白羽の矢が立った。「社会実装を目指していた自分にとって現場でまさに実装できるチャンスだと捉えました」。こうして、長崎県庁に3年間出向することになったのだ。

 

自ら歩み寄って距離を縮めた

県庁では部長職での就任が決まり、現場のリーダーを任された。研究者と自治体職員。その働き方や文化の違いに戸惑ったことはなかったのだろうか。「基本は物怖じしないたちなので、違う環境に置かれてもなじんでいくのですけど、強いてあげるなら書類仕事の多さに戸惑いましたね」。自治体の仕事はどうしても書類上で行うことが多くなりがちだ。しかし、鈴木さんから見て県庁は県の中ではもっとも地域の情報が入ってくる場所に思えた。そんな場所だからこそ、自治体職はもっと人と人をつなげるコーディネートができるはず。そこで、現場でのコミュニケーションに注力するように呼びかけた。とはいっても最初は東大の先生と自治体職員。職員の方が距離を感じていたのかもしれない。鈴木さんは自分から積極的に職員の話に入っていくように心がけた。「個室を貰えるという話もあったのですが、大部屋でいいよ、と言っておいてよかったですね。教員になってからはずっと個室で働いていましたが、みんなで情報を共有しやすいので溶けこむことができました」。

 

地域発の社会モデルを提案

EVは走行距離や車両価格の問題から全国的には普及が進まないが、このプロジェクトではEVのための一歩先の将来の環境を作ることで、EVの本当の実力を確かめ、その成果は国際的にも高く評価された。例えば、EVのための情報システムとして、レンタルする際に薦められた観光プランなどをPC上で入力しておくと、それに従ってカーナビにプランの情報が入力される。充電スポットとともに渋滞情報や観光情報が得られる、EVの充電と観光情報が一元的に得られる仕組みを作った。さらには、EVに充電される電気エネルギーが真にクリーンなものとなるよう、地域のエネルギー供給のあり方も含めた次世代型の地域社会モデルの提案にまで話が拡がっている。

地方の交通システムに貢献したい

今年東大に戻ってきたばかりの鈴木さん。これからやりたいことを伺った。「やはり地方の交通システムについて取り組みたいですね。地方で経験してきたことを活かして、運転できないお年寄りのための自動運転システムとかを開発してみたい」。学生の希望する方向性を大事にしながら研究室としてのテーマを広げていきたいと考えている鈴木さん。文系のバックグラウンドがある人でも、「科学を社会に実装する」という理念に共感してもらえる人なら受け入れたいと考えている。ソーシャルでオープンな研究室を目指した挑戦をこれから再スタートさせる。

 

鈴木高宏研究室