WHILL株式会社 今どき車いす メイカーの アジャイル開発術

WHILL株式会社 今どき車いす メイカーの アジャイル開発術

WHILL株式会社 最高開発責任者(CDO)
内藤淳平さん

健常者もカッコいいと思えるような車いすを作ろう‐そんな想いから数人のエンジニアで設立されたWHILL株式会社。アメリカで165万ドルの資金調達を成功し、いよいよ発売目前へと迫る同社の次世代車いす「WHILL」の開発には、アジャイル開発という従来と異なる開発手法が取り入れられている。

既存概念を変える製造プロセスを目指す

w2仕様決定・設計・実装を順番に進め、一つ一つ完了してから次のステップへと進める開発手法は「ウォーターフォール」と呼ばれ、ものづくりではなじみ深い開発手法だ。一方でアジャイル開発では、部品ごと・ユニットごとに仕様決定と実装を繰り返し、仕様自体も必要に応じて変更しながら開発を進める。「これからは開発と製造の概念も変わるはず。ハードウエアメーカーであっても開発期間に終わりがなくなる。僕らも常にバージョンアップを繰り返すことで、車いすユーザーたちのニーズを開発に反映し続けるつもりです。例えば、車いすの操縦一つとっても、ソフトウェアをアップデートすることで、個人の状態にあった最適な操作性能を提供できるようになるでしょうし、地図アプリなどと連動させることで、ユーザーがもっと便利になる機能もつけることができるはずです」。同社のCDO(最高開発責任者)の内藤さんは語る。

タイヤの再発明で車いすの概念を変える

「カッコ悪くて病人だと思われてしまう」「ちょっとした段差があるだけで行動範囲が狭められてしまう」。ひとりの車いすユーザーから聞いた心理的、物理的な2つの問題意識から開発をスタートさせたWHILL。先進的なデザインでカッコいいイメージ作りを行うとともに、技術的に注目を受けたのが従来の概念を変える最新技術を盛り込んだタイヤだ。24個のタイヤを進行方向と垂直に並べて環状に配置し、前後と左右の2つの軸方向に回転させる方式をとることで、7.5cmまでの段差を乗り越え、狭いスペースでも方向転換できる全方位タイヤを作り上げた。クールなデザインとタイヤの概念を変える技術は世界中を驚かせ、結果として個人投資家やベンチャーキャピタルから開発に必要な資金調達を実現した。

ユーザーの声で仕様を決める

w3「アップルのようなメーカーならば、自分たち自身がユーザーでもあるためユーザー目線で仕様を作ることができますが、僕らは作り手ではあっても使い手ではありません。ルールを決めないと仕様がぶれてしまう。だからすべての仕様をユーザーの声で決めるというルールを作りました」。昨年7月までユーザーの声を聞いて回り11月までの4か月で開発を行い、12月から再度実証試験をするという開発とフィードバックを繰り返すスタイルをとっている。

実際、11月に開発した試作品と2月現在の製品では、背もたれに荷物をひっかけられるデザインに変わり、フラットだった背もたれは5度後ろ側に傾いている。「これらは最初のヒアリングではまったくでてこなかった要素です。でも開発した製品を使ってもらったところ、必要な機能として出てきた意見なんです」。ユーザーの声を聞かずに考えたアイデアがニーズをとらえることもある。タイヤが大きいというWHILLの特徴を考慮し、ユーザーが乗り降りしやすいようにと椅子が電動で前後に動く機能を取りつけたところ、ユーザーからはとても好評だった。「ユーザーは、ものがない状態で話を聞いても本当に欲しいものを答えられないこともあります。だからこそ、実際にものを作り使ってもらうことが重要なんです」。

粘土で作るプロトタイプ

WHILLの特徴の一つとして、スタイリッシュなマウス型のコントローラーがある。これまで一般的だったジョイスティック型のコントローラーでは、全方位を一つの軸で動かすため、まっすぐ進みたいと思っても、ちょっとした力の入れ具合で若干左右に動いてしまい、まっすぐに進むのが難しい。さらに手の感覚がない人はうまくコントロールできない。そこで車輪の前後と左右を2つの軸で動かすマウス型のコントローラーを開発した。「とにかくユーザーの声で決めるというルールでの開発手法をとる僕らにとって、実際に試作してユーザーに試してもらうアプローチは必須です。このマウスコントローラーもサイズや形状を決める際にはユーザーに使い心地を見てもらってから開発を進めました。実はその際に一番役に立つのは、最近流行りの3Dプリンタではなく、実は粘土なんです。粘土ならばユーザーの前で形状を作り、その場で形状やサイズ感を試してもらうことができる。こういう細かい工夫をしていくとともに、開発チームに実際の車いすユーザーにも参加してもらうことで、すぐにフィードバックをもらえる仕組みをつくっています」。

まるでIT企業のように、従来のものづくりとは異なるスタイルで開発を続けるWHILL。製品が販売された日が来ても、彼らの開発は続く。

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