技術へのこだわりがつなげたキャリア イルミナ株式会社

技術へのこだわりがつなげたキャリア イルミナ株式会社

小林 孝史 さん 博士(生命科学)
イルミナ株式会社
サービス・サポート部テクニカル アプリケーション サイエンティスト

次世代シーケンサーなどの研究機器やアプリケーションのリーディングカンパニーであるイルミナ株式会社で働く小林孝史さん。多国籍なチームの中でルーキーオブザイヤーにも選ばれた活躍のベースは、研究生活の中で養われた技術へのこだわりだ。

とにかく技術を高めたい

学位を取得した京都大学の時代から一貫して生体シグナル物質であるリン脂質の研究を行ってきた小林さん。酵母に存在するイノシトールのリン酸化によるストレス応答や、リン脂質に結合するタンパク質の解析と、テーマを広げていく中で一歩ずつ新しい実験技術を習得していくことが好きだった。それらを組み合わせることで、独自性のある「オリジナルな研究」に辿り着くと考えていたからだ。「技術を積み重ねていくことが、研究成果につながると信じていたのです」。

留学先であるイギリス・バーミンガム大学Stephen Dove博士の研究室も、その研究室にしかない技術や知見に注目して選択した。リン脂質の一種であるPtdIns(3,5)P2の発見をしたDove博士の研究室には、第一発見者に特有の膨大なノウハウや独自の考え方が蓄積していた。その研究室でしか学べない技術の習得、それが留学に向けた大きな推進力だった。

働き方は人の数だけ

留学先では慣れ親しんだ日本とは違う研究環境に戸惑うことも多かった。イギリスでは、多くの研究者がそれぞれの生活ペースと照らし合わせて自分に最も合った働き方をデザインしていた。子どもがいる研究者は早朝から仕事をはじめ、午後4時には帰ることもある。とにかくデータを出すために夜中まで研究をする者も稀にいる。多様な価値観を持つ研究者だからこそ、それだけ多様な働き方があるのかもしれない。留学経験は小林さん自身の価値観を広げた。そして、ゆるやかに流れる時間の中で、活躍の場についてじっくりと見つめなおす下地をつくった。日本に帰ってポスドクを続けたが、任期がある仕事の中で、長期的な視点からの研究成果を求められるスタイル。そこでキャリアを続けることの壁も感じていた。自分がこだわってきた高い技術が活かされる場所はほかにもあるのではないか、と次第に自身の適性をアカデミア外にも求めるようになった。「自分がフィットする場所は正直わからない。だったら次の就職活動では素直に研究職以外も広く視野にいれてみようと思いました」。研究しかしたことのない中での手探りの転職活動。2012年、小林さんはイルミナ株式会社へと転職した。辿り着いたのはこだわってきた実験技術や知識が活きる企業だった。

認められたのは積み重ねた力

小林さんは現在テクニカルサポート職として、クライアントである研究者のサポートを行っている。複雑化する研究機器の使用方法の紹介、運用のサポート、そして試薬のアレンジなど業務内容は幅広い。どれだけの研究者をサポートしたのか、それが適切だったのかが数字として現れることが新鮮だ。また、アジア・パシフィック全域で連携してサポートを行っているのでチーム内の多国籍なメンバーとコミュニケーションを取ることも必要だ。

今まで積み重ねた研究者としての経験、実験技術、そして留学先で経験した多様な価値観をもつ人達とのコミュニケーションはそのまま現場で活かされている。チームで1年に一人選ばれるルーキーオブザイヤーを取った理由を「研究技術をサポートする立場として、自分自身が高い技術の知識や応用方法を知っていること」と分析をしている。これからも技術へのこだわりを活かして「研究者と一緒に科学を前に進めるための、主役の一人でありたい」と小林さんは静かに決意する。

プロフィール

2005年京都大学大学院生命科学研究科博士課程修了。2005年から2008年までをイギリスのバーミンガム大学で、2009年から2012年まで東京工業大学で博士研究員を経て、2012年9月よりイルミナ株式会社サービス・サポート部所属。