成形技術のパイオニアであり続ける 吉田テクノワークス株式会社
吉田テクノワークス株式会社
代表取締役社長 吉田 重雄 さん
墨田区はかつて化粧品大手の資生堂が工場を置く地域だった。化粧品の進化とともに、そのブランドイメージを伝えるコンパクトやケースなどの外装も多様な機能と表現が求められ、素材である樹脂加工が盛んになった。戦後間もない1946年に事業をスタートした吉田テクノワークス株式会社も、化粧品のコンパクトや口紅のケースなど、あらゆる化粧品外装を手がけてきた会社の1つだ。同社には独自に開発した世界初の技術がある。その技術を代表取締役社長吉田重雄さんに伺った。
高機能で多様なプラスチック成形
吉田テクノワークスは、吉田さんの祖父が戦後の樹脂需要の高まりとともに始めた会社だ。同社が誇るのは「インモールド成形のパイオニア」としての技術力の高さ。インモールド成形とは、プラスチック成形の金型の中にフィルムを挟み込み、成形と装飾を同時に行う製法のことである。加工ステップが少なく、立体感のある模様など多様な装飾ができるので、今では世界中のメーカーが採用する加工法となり、同社は化粧品業界には欠かせない存在となった。そして、その技術は化粧品の外装にとどまらず、携帯電話の背面やゲーム機、携帯音楽プレイヤーなど、多岐に渡って求められるようになった。吉田さんは、7年間銀行に務めた後、同社に入社した。「7年勤めて次のステップに行くかというとき、上司に銀行勤めを全うするか、家業を継ぐか、どちらかを選ぶよう諭されて覚悟ができたのです。父にその決意を告げると、ああ、そうか、という感じでしたけどね」。
新たな技術を生み出し続ける
「ものづくりが好きな人が集まっている」という同社の研究開発はインモールド成形に続く技術を次々と生み出している。携帯電話業界に進出するにあたって強みになったのは、メタリック感を装飾する金属蒸着だ。金属フィルムで表面だけにメタリック感を施す装飾は携帯ケースやコンパクトなどのプラスチック成形でよく行われている。しかし、コンパクトで使用するアルミフィルムは携帯電話では使うことができない。アルミは電波に影響する、と言われていたからだ。そこで、同社では、インモールド成形のノウハウを活かして、電波に影響しないと言われる錫やインジウムと言った金属を安定して装飾する技術を開発した。「日本の企業は価格競争していてはダメだと思います。世界で自分たちにしかできない技術を、いかに開発するか。その技術に世界がついてきます」。と吉田さんは言う。今では、全国や海外にも生産拠点を持つグループ企業へと発展した。
生き残りをかけて、世界へ進出
化粧品と通信機器という2つの業界で確固たる信頼を築いた同社だが、課題もある。携帯電話やスマートフォンの国内生産は製造ピーク時で1機種あたり100万台以上。しかし、現在は国内メーカーが次々撤退し、製造台数は1機種あたり20万台程度になっている。これからは世界に目を向けて勝負をしなくてはならない。吉田さんが世界にアピールするために始めたことの1つが、世界的なデザイナーとのタイアップだ。インモールド成形の技術を活かして、名児耶秀美(なごやひでよし)さんと「ornament」と言うブランドを立ち上げた。最初の作品としてグラデーションの美しいカードケースを制作。名児耶さんの知名度やブランドとタイアップして世界の展示会や美術展でPRの場を設けている。営業の仕方もこれまでと変わってきた。商社との連携を強めたり、技術のわかる営業担当を育てたいと思っている。「コスト競争に打ち勝つためにはパイオニアであり続けなくてはならない。新しい仕組み、新しい技術。それを生み出す社員を、育てていきたいですね」。
|吉田 重雄 さん プロフィール|
大学卒業後、富士銀行入行。1993年、吉田工業株式会社入社後、社内人事評価制度の改革に着手。オーナー型中小企業には珍しい、能力評価型の人事制度が高く評価され注目される。2006年東京都ものづくり人材育成大賞受賞など。