これであなたも研究者! 自分の遺伝子を 調べる研究キット

これであなたも研究者! 自分の遺伝子を 調べる研究キット

株式会社リバネス×株式会社鳥人間×株式会社浜野製作所

オープンソースハードウェアを活用し、これまで市販されていた装置の価格から大幅にコストダウンに成功したリバネスのMakersToyPCR。近年注目を集める遺伝子検査を個人で行うために必要なこの装置は鳥人間と浜野製作所というハッカー・町工場とのコラボレーションにより実現した製品だ。

個人が遺伝子を調べる時代がやってくる

mkrs-2丸:MakersToyPCRは、「サーマルサイクラー」と呼ばれるライフサイエンスの実験機器です。温度変化により遺伝子増幅を行う装置で、遺伝子解析を行う上で欠かせません。これまでサーマルサイクラーは、どんなに安いものでも30万円くらいしてしまい、大学の研究現場でしか使われていませんでした。そこで、このサーマルサイクラーを安く作れないかと思い、久川さんに相談したのがきっかけでしたね。結果的に10万円という金額で市場に提供できる製品をつくれたのは非常によかったです。

久川:そうですね。リバネスさんが、OpenPCRというアメリカのバイオハッカーが作った、設計図をすべて公開しているオープンソースハードウェアを見つけてきて、これを改良してよりよいものにできないか、という相談を受けたことがきっかけでしたね。私たちは元々ソフトウェア開発に強い会社でしたが、最近ではセンサーや通信規格などがモジュール化され、外装や基板も簡単に作れるようになったため、最近ではハードウェア開発も行っています。MakersToyPCRも、OpenPCRの設計図を見ながら半年くらいかけて作りました。

丸:最近では、中学校や高校の授業で遺伝子についての単元が大きく増加し、一般向けにも23andMeやジーンクエストのような個人向けの遺伝子解析サービスを行う会社が出始めるなど、遺伝子解析には非常に大きな注目が集まっています。MakersToyPCRは、単に安価な実験機器を開発した、というよりも学校現場や一般の方が気軽に自分の遺伝子を調べたり、身近な生き物や食品の遺伝子を調べたりというように、それぞれが研究者になる新しい時代を創る製品だと考えています。

ハッカーだけではできないものづくり

久川:今回のMakersToyPCRは、私たちにとっても初めての本格的なハードウェア開発だったのですが、浜野製作所やリバネスと連携しなければ開発できなかったと思います。MakersToyPCRでは、木材のほかに様々な金属部品を使っていますが、さすがに金属加工は私たちにはできません。そこでそういった部品を浜野さんにお願いして作ってもらいました。

浜野:最近、3Dプリンターが大きく注目されていて、なんでも作れるという誤解をしている人もいるようですが、そんなことはありません。作りたいものの形状や材質、コストを考えるとむしろ町工場でないとできないもののほうが多いんです。ちょっとした形状の違いでコストや耐久性も変わってくるので、量産まで考えてものづくりを行う場合、しっかりとものづくりのプロに相談することは非常に大事だと思います。

丸:それと、もう一つ大事なのは、使用者のニーズや装置の技術的に重要なポイントを明確にすることですね。研究者しか使っていないようなものなので、そこのポイントは実際に使ったことのある人間でないとわかりませんから。

久川: そうですね。そもそも、遺伝子増幅装置なんてものの存在も普通に生活をしていたら知る機会すらありませんからね(笑)私たちのようなハッカーは、新しいアイデアで試作品を作ることはできます。ただ、使用者のニーズや量産化を見越した製造方法までを全部自分たちで考えることは難しい。そういった意味でもこれからのハードウェア開発は、様々な専門家のコラボレーションが重要になると思います。

プロトタイプを作り続ける新しい仕組み

ninjaPCR丸:今回、MakersToyPCRと同時に、NinjaPCRという名前で鳥人間さんから「Seeed Studio」などハッカー向けのサイトで販売しようとしている点も面白いですよね。

久川:そうですね。元々、オープンソースハードウェアだったものですから、私たちはより多くのハッカーたちと、この製品を改良していきたいと思っていました。そのために、教育現場や一般向けにはリバネスさんからMakersToyPCRを販売して、世の中に広めてもらうと同時に、色々と仕様を変えたプロトタイプ版をNinjaPCRとしてハッカー向けサイトで販売し、情報発信するという形をとっています。NinjaPCRはユーザーサポートもつけず、どんどんとバージョンチェンジを繰り返していき、その中でいいところをMakersToyPCRに還元していく予定です。位置づけの異なる2つの製品にすることで、製品開発が進化し続けるモデルになっています。つまり、ソフトウェアの安定版と開発版みたいなものですね。これからのハードウェア開発には、こういった今までにない仕組みも増えていくと思います。

浜野:私たちのところにも、最近個人の方からのものづくりに関する相談も増えてきていて、今年の3月には町工場版のFabLabを墨田区にオープンする予定です。本気でものづくりをしたい人たちが、気軽にプロに相談できる環境を作ることで、もっとものづくりは加速していくはずです。

丸:今、ものづくりは大きな変化の時代を迎えています。ハッカーと町工場という、異なるカルチャーの人たちとともに、今後も時代を変えるような製品を作っていきたいですね。