知識プラットフォーム」の中心から研究とビジネスの未来を提案したい
磯貝 里子 博士 (生命科学)
研究室から外へ出て出会った「書く」仕事
私は、幼い頃から本が好きで、小学生のときは図書館に毎日通って好きな本を好きなだけ読んできました。学部から博士課程までの研究対象だった植物が好きになったのも、図鑑や漫画で触れてきたことがきっかけです。
悩みながら進学を決めた博士課程では、あっという間に過ぎてしまった修士2年間の経験から、「このまま研究室にこもっていては、この3年間もすぐに終わってしまう」という漠然とした危機感を抱いていました。変化を求めて研究室を飛び出した先—1人で出かけた展示会—で出会ったのが、最先端の研究を企業や一般向けに紹介する雑誌です。「論文以外にも研究を発信する方法がある」。自分が大好きな本が、研究と社会を結び付ける架け橋となっていることを知り、「書くこと」に興味をもち始めました。
リバネスを知ったのは博士課程2年のとき。登録していたメルマガにあった「サイエンスライター募集」の文字に、思わずインターン希望のメールを送ってしまいました。それから博士課程修了まで約1年半、高校生向け科学雑誌『someone』の執筆・編集に携わりました。
面白い未来につながる研究を届けたい
インターンシップを通して「企業や人、技術など研究に関わるものをつなぐ記事を書いていきたい」という気持ちが固まり、リバネスに入社。主に、大学の研究者に取材をし、研究内容や、それにかける研究者の思いや哲学を記事にする仕事をしてきました。立ち上がったばかりの出版事業にも参加し、2010年には、初めて編集を担当した書籍を発行しました。今は、制作だけでなく流通に関わる業務も担当しています。コンテンツ制作の依頼主や書籍の著者のほか、デザイナー、組版所、印刷所、書店、配送会社、web制作会社などとコミュニケーションをとってサイエンスをかたちにし、人々に届けることができる仕事です。以前、私が書いた記事が載っている本を手にした学生さんが、「この本好きなんです」と笑顔で教えてくれたとき、研究と人をつなぐことができたと実感しました。
リバネスの媒体で取り上げていきたいのは、これから未来を開拓するであろう若手研究者です。研究経験をもつリバネススタッフだからこそ引き出せる深い話があるし、現場で見聞きできたことを「この研究が面白い!」と世の中に示すという使命があると思っています。
これからのリバネス出版が担う役割
リバネス出版が設立されてから今年で10年。書籍や様々なコンテンツを人に届ける仕事をしながら、今は別の役割も担っています。リバネスでは、定期的に刊行している雑誌に研究者の取材記事を掲載する過程で、社員全員が書く力のトレーニングをします。取材で築いた研究者との人脈や、そこで得た知識そのものが、リバネスにおける他の活動で活きてくるからです。たとえば、取材をした先生と一緒にセミナーを開いたり、企業の研究所の人たちと行う、技術の事業化を検討するディスカッションに加わってもらったり。取材を通して深くつながっているからこそ、新しい価値を生み出す活動を研究者と一緒にすることができます。リバネス出版には、社員みんなが取材で得た知識や人脈を集約し、活用できるかたちにする、プラットフォームとしての役割があるのです。この仕事は、科学技術をコアに活動するリバネスならではの魅力です。これからは、書籍などの紙媒体を通して研究をわかりやすく伝えるだけでなく、webなども含め種々の媒体を駆使しながら、研究とビジネスの情報が集まる核としてプラットフォームとしての役割をさらに強めていきたいと思っています。
(文:吉澤 紫津葉)
磯貝 里子(いそがい さとこ) プロフィール
東洋大学大学院で2008年に博士号を取得。リバネス入社後の仕事は、研究者の取材記事作成や書籍制作・流通がメイン。制作に携わった主な書籍は『T-BERRY教員紹介号』、『宇宙でくらそう〜リバコミ!vol.02』『未来への6つの約束—日本大学N.研究プロジェクト物語—』など。社員の寝癖の指摘からデスク整頓のコツ伝授まで、こまめなコミュニケーションを大切にしている。