博士とともに科学の未来をつくりたい

博士とともに科学の未来をつくりたい

博士のキャリアパスが多様化する中、博士人材を強く求めている現場がある、それが「教育業界」だ。小学生から高卒生のための塾・予備校を運営する「KEC近畿教育学院・KEC近畿予備校」と、博士人材活躍の場を広げてきた「株式会社リバネス」がタッグを組むことで、研究者が教育業界で活躍できる基盤づくりが始まろうとしている。研究者が教育業界に求められる理由とは?それがポスドク問題をどのようにして救うのか。KECの学院長である木村剛さんに、自身も博士号を持つ、リバネスの石澤敏洋が伺った。

 

学校が博士を求めている?

石澤: 教育現場に博士号取得者を紹介することがあるそうですが、そのようなニーズはどのくらいあるのでしょうか?

木村: もともと学校の先生とお話する機会が多く、「学校で数学、理科の先生になりたい人を知らないか?」と相談されたのがきっかけでした。教員として博士号取得者を紹介してほしいという声は、みなさんが想像している以上に多いと思います。理由は2つあります。まずは研究分野への深い知識や経験があること、もう1つは理科という教科への向き合い方を知っていることです。実は教育現場を志す方は指導手法や教材の研究を行うことが多く、まだ解明されていない事象に対して仮説を立て、実験を設計して検証し、成果を論文としてまとめるといった科学的な研究活動の経験がある人が現場では不足しているのです。

石澤: 確かに、最近学校で「課題研究」という生徒が研究発表をする時間がありますが、「課題の設定の仕方」や「研究計画の立て方」、「考察」などを指導できる先生は多くないと聞いています。

木村: さらに、私立の進学校では上位の理系大学に生徒を進学させたいと考えています。その際に重要なのが、受験勉強として理科に向き合うことではなく、「理科が面白い」から進学したいという気持ちを生徒に持ってもらうことなのです。

石澤: 勉強としての理科ではなく、学問としての科学の魅力を伝えられるのは、研究経験を持つ私たちの強みかもしれませんね。実験に没頭していたらいつのまにか夜中だったとか、翌日の結果が楽しみで興奮のあまり寝られないとか、あのワクワク感の1割でも伝えることができれば、生徒の学ぶ意欲は大きく変わる気がします。

 

博士の目線が子どもを変える

石澤: 「科学に向き合う」ことはしてきても、「教える」経験を積んでいる若手研究者は多くありません。そんな私たちが教員になるとしたら、どのようなスキルやトレーニングが必要なのでしょうか?

木村: 公立・私立学校の教員になるには、基本的には教員免許が必要ですが、教員免許がなくても、博士号取得者が採用されることもあります。また、非常勤講師として経験を積みながら、免許を取得する事例も少なくはありません。ただ、いきなり教壇に立って授業をすることは難しいので、KECでは2つのポイントに絞ったトレーニングを行います。まずは「What to teach=何を教えるのか」、次に「How to teach=どうやって教えるのか」です。

石澤: How to teachというテクニカルな部分に目が行きがちですが、教科書という共通の教材を使っていても、何を教えるかを決めることが大事なのですね。

木村: 例えば細胞について教えるとき、本当に大事なのは細胞内小器官の「名前」を覚えることではありません。その器官の生命にとっての重要さ、また器官同士が様々なコミュニケーションをとりながら動いているというダイナミックさ、まだ解明されていない現象など「ストーリー」を持って話せることのほうがより重要なのです。ですので、まずは各テーマや単元に対して、「本当に伝えるべき内容」を設定してもらい、模擬授業を繰り返します。ポイントがずれているようであれば、議論しながら修正していきます。

石澤: リバネスでも大学生、大学院生が小学校から高等学校の子どもたちに実験教室を行います。そこで大切にしているのが「自分が一番伝えたいことは何か?」です。理科に興味がなかった生徒でも、講師が生き生きとその分野について語っているとどんどん引き込まれていきます。そのためには自分の研究を噛み砕き、研究の意義や自身のモチベーションを再確認する必要があります。そうすることで「何を伝えるか」が絞られていきます。

木村: 何を教えるかがぶれていると、子どもたちには正確に伝わりません。What to teachは専門性がある人のほうが的を射ていることが多いです。博士が我々の知らない本質を生徒に教えてくれること、それを現場では求めているんです。

 

研究と教育の2つの武器を手に科学の発展に貢献する

石澤: 博士にとって、教育現場に出て行く魅力とは何だと思いますか?

木村: 教育が「未来づくり」であるという点ですね。子どもたちの夢や未来、これからの科学をも創る仕事だと思っています。個人でできることに限りがあるのは、研究も教育も同じだと思います。教育現場では、科学の面白さや課題を自分の中で終わりにしてしまうのではなく、生徒たちにその思いを伝えることができます。すると、近い将来、彼らがその課題を解決することで、よりよい未来につながっていくはずです。

石澤: 世界を変えるには、「面白さ」を伝えていく必要があり、それを一番知っているのが博士だと思います。博士の武器が教育現場と結びつくことで、強力なオリジナリティになりますね。

木村: 理科好きな生徒を育てるためには、本物に触れさせることが一番です。毎回の授業で実験させるのは難しいですが、研究経験を持つみなさんから科学の歴史や研究内容などを伝えるだけでも、興味関心を引き出すことができます。また、生徒は飛躍的に成長します。我々が学んできたことを、授業を通して生徒に伝えることで、人生観を変えることができます。KECの授業をきっかけに研究者の道を志した生徒はたくさんいます。科学に携わる人を育てるという間接的な寄与によって、科学をさらに発展させることができるのではないかと考えます。

石澤: 研究者が、その経験や想いを生かせる場所が教育現場に広がっている。しかも、それが科学の発展や未来づくりにつながっていく。博士号取得者の新たなキャリアとして、多くの人に知ってもらい、その可能性を広げていきたいですね。

 

 

教育現場に興味のある若手研究者必見!

小〜高校生向けの塾・予備校を運営するKEC近畿教育学院と研究者集団リバネスは、教育現場での活躍を目指す大学生・大学院生向けのトレーニングプログラムを実施します。 在学中に自らが感じている科学・研究の楽しさを人に伝える力を身につけて、次世代の科学者を育てませんか?
興味のある方は、6月20日に開催する、以下の説明会へご参加ください。

 

説明会情報

■日 時: 6月20日(金) 18:00〜20:00
■場 所: KEC梅田本校 大阪府大阪市北区曾根崎新地2丁目6−12 (下記地図)
■参加費: 無料
■対 象: 学部4年生、修士・博士課程の学生
■内 容: 情報交換会・プログラム説明会
■申 込:https://lne.st/2014/05/26/11167/
*お問い合わせは、 [email protected] までご連絡ください。