こどもの心で研究を楽しむ〜Fortune誌トップ50に入るボストンの材料工学研究者〜 フィオレンゾ・オメネット
フィオレンゾ・オメネット さん Ph.D. タフツ大学 生物医学工学部 教授
フィオレンゾ・オメネットさんはスティーブ・ジョブスやジェフ・べゾスとともに、 経済誌『Fortune』にてテクノロジー分野を代表するトップ 50 人として取り上げられた 研究者だ。何の変哲もない絹糸を産業利用可能なマテリアルへと仕立て上げるユニークな 研究に辿りついたのは、自分が本当にやりたいことをつらぬいてきた結果だ。
■自由にむかって進む
両親はともに研究者。だから、自身も 研究者としてのキャリアを歩むことに子 どものころから疑問はなかった。レー ザーなどの強い光が物質と相互作用する 仕組みを明らかにすることに魅せられ、 故郷イタリアのパヴィア大学で研究生活 をスタートさせた。
博士号を取得した後、世界中の研究者 が競い合うアメリカで自分自身の力を試 したいという気持ちが沸き起こり、一念 発起して研究留学をすることに。彼がポ スドクとして勤務したのは「合衆国の至 宝」と呼ばれ、軍事・機密研究も含めて あらゆる科学の最先端が集まるロスアラ モスの国立研究所だった。最高の設備と スタッフに囲まれる充実した研究の日々 が続き、ポストも得ることができた。し かし、オメネットさんが最終的に優先し たのは、「個人でより自由に研究テーマ を立ち上げることができる環境」だった。 大研究所での安定を捨て、大学教授のポ ストを探すことにした。
■直感の先に出会いがある
そんな時にちょうど公募されていたの は、ボストン郊外の名門タフツ大学の生 物医学工学部のポストだった。彼の専門 である光学分野と異なるが、オメネット さんはこのチャンスに飛びついた。「子ど もみたいに自分がおもしろいと思うとこ ろへ行くのが、研究」と彼は言う。移籍 すると、現在の研究の礎となる「絹タン パク質」が待っていた。同僚のデービッ ド・カプラン教授が生化学的に解析して いた絹タンパク質は環境負荷が小さく、 かつ産業利用可能な様々な物理的特徴を 持っていた。絹のプラスチックから人工 血管まで、新しいマテリアルを次々と生 み出す異分野コラボレーションを、二人 は今も続けている。
■アイデアが湧き出る町で
オメネットさんが研究をしているボス トンは、世界有数の学術都市だ。ハーバー ド大学、MIT、ボストン大学、そして大 小の製薬企業やバイオベンチャーが立ち並び、共同研究が活発である。「トレン ドが入って来やすいし、優秀な研究者や 企業とも直接会ってディスカッションが できるからインスピレーションが湧いて きて毎日が楽しいよ」と彼は言う。
彼が創りだすのは医療目的に使用でき るマテリアルにとどまらない。導電体を 添加すれば絹は電子基板にもなりえる。 元々の専門性を活かして光学レンズも絹 から創りだす。「iPhone 50 は、全部絹 でできているかもよ」と応用可能性が無 限大とも言える自身の研究をうれしそう に語る。辿り着いたのは研究がどんどん進む場所。研究を進めるために最も必要なものは研究者個人の好奇心なのだ。
<プロフィール>
1997年イタリアのパヴィア大学で Ph.D. 取得。1999 年から 2005 年までア メリカのロスアラモス国立研究所での博 士研究員を経て、2005 年 9 月より現職。