自分の情熱に従い、拓かれた道~シリコンバレーマインドを学んだ企業研究者の活躍〜 城戸 隆

自分の情熱に従い、拓かれた道~シリコンバレーマインドを学んだ企業研究者の活躍〜 城戸 隆

城戸 隆(きど たかし)さん 博士(工学)  株式会社理研ジェネシス  経営管理部 マネージャー シニアサイエンティスト

計算機科学を武器に、個々人の遺伝子配列の特徴から特定の病 気のなりやすさを探索する研究を行っている城戸隆さん。そのキャ リアの中で大学、企業研究所、ベンチャー、海外へと渡り歩いてき た背景には、自分の心に正直に生きるロールモデルと、失敗と挑戦 を讃えるシリコンバレー文化との出会いがあった。

■背中を追った、米国の日本人研究者たち

パソコンがまだ一般的でなかったこ ろ、城戸さんは慶応義塾大学大学院で計 算機科学を専攻していた。大学の先輩に 会いに訪れた米国で、ある大学の講義を 聴講し、生物の自然淘汰からヒントを得 た「遺伝的アルゴリズム」に強いインス ピレーションを感じた。以前から生命現 象を情報プロセスと捉える思想に感銘を 受け、生命科学とコンピュータ科学の境 界領域に興味を持っていた彼は、その授 業を教えていた先生から米国で同分野を 研究していた北野宏明氏を紹介してもら い意気投合。当時まだ博士課程在学中 だったにもかかわらず、米国の第一線で 活躍する日本人研究者たちと肩を並べ て、本を執筆することになる。執筆にあ たって、研究室の計算機をフルに活用し、 わくわくしながら遺伝的アルゴリズムを 使って様々な計算問題を解いた。「シリ コンバレーの人が持つ、最先端の境界領 域に挑戦する考え方や、挑戦と失敗を称 えるマインドに憧れました」。このとき シリコンバレーで出会った ”Freedom to Fail”( 失敗を恐れず挑戦せよ! ) という 言葉は今でも大切にしている。

■シリコンバレーマインドを持つ研究者を目指して

城戸さんのシリコンバレーマインドは 就職後、更に加速する。博士課程を修了 し、就職した NTT 情報通信研究所では、マレーシアの R & D 立ち上げメンバーに 指名される。マレーシアの国づくりのコ アとなる IT 産業を興すため、同研究所 がもつ技術を現地社会へ応用することを 目指した新規研究プロジェクトの立ち上 げに参画。政府やベンチャー企業を巻き 込んで、最先端技術による IT 産業や新 しいメディア文化の創造に尽力し、当時 としては新しいソーシャルネットワーク サービスの開発も行った。そのころは Yahoo や google 等の新時代を予感させ るインターネットサービス企業がシリコ ンバレーで次々に立ち上がり、先端研究 から生まれた技術を使ったベンチャーが 立て続けに生まれた時期でもある。「マ レーシアにシリコンバレーを創る。そん な気概で新しい取り組みにチャレンジし ていました」と当時を振り返った。

■生命をコンピュータで理解する 世の中をつくる

城戸さんは現在、遺伝子検査の精度向 上を目指したデータ解析の研究を行って いる。ある病気になった人が持つ遺伝子 の特徴データを集め、病気と関連性の高 い遺伝子を統計的に特定する技術だ。高 速に発展していく IT 業界において、技 術の高度化を目指しても限界が来る。新 しい研究の切り口を求めた城戸さんが 戻ったのが、生命科学とコンピュータ科 学の融合だった。研究所を退職後、遺伝 子検査のベンチャー企業、スタンフォー ド大学など様々な場所で挑戦を続け、生命をコンピュータによって理解しよう、 というこれまで育んできたビジョンがこ こで具現化されつつあるのだ。日本では 今のところ多くの人は健康や病気に対す る意識や意思決定を医師・病院にゆだね ている。病気に対する人々の意識を喚起 し、病気や心の病に苦しむ人の役に立ち たいという。学生時代に出会ったロール モデルや価値観を原動力に縦横無尽に行 動してきた城戸さん。「海外に出て、人 との出会いを通じて自分自身が勝手につ くっていた壁を初めて感じることができ た。考えるだけでは不可能なその気づき こそ、これまでの環境から外に出る意味 なのだと思う」。シリコンバレーと日本 を行き来する生活の中で、彼は今もまだ 旅の途中である。

<プロフィール>

慶應義塾大学大学院理工学研究科計算 機科学専攻にて博士号(工学)を取得。 NTT 情報通信研究所に勤務、在職中に海 外 R&D 拠点立上げのためにマレーシア へ赴任。その後、遺伝子解析のベンチャー 企業にて研究開発に従事し、2006年 か ら ス タ ン フ ォ ー ド 大 学( G e n e t i c s Department、Stanford Microarray Database group)にて客員研究員を勤め た。現在は理研ジェネシスにて遺伝子の 特徴と病気との関連性を明らかにする技 術研究に取り組む。