自分を 追い込み、ハートに 火をつける〜宇宙データ活用アプリ開発ハッカソン『EngGARAGE*04』

自分を 追い込み、ハートに 火をつける〜宇宙データ活用アプリ開発ハッカソン『EngGARAGE*04』

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ものづくりの感覚をキックスタートする

研究者ともなれば、毎日何かしらのコードを書いた り、設計をしたり、工作をしたりしたい。新しいもの をつくりたいと思うだろう。しかし、現実には「日々 新しいものを生み出している実感がある」と胸を張れ る人はどれくらいいるだろうか。意外なことに、研究 室に通っていても「なかなか新しいものが作れない」 「もっとものづくりをする時間が欲しい」と困ってい る人は多いのではないだろうか。

そんな状況を変えるにはどうするか。一つの方法 が、自分を「ものづくりをする状況に追い込む」こ とだ。もし、宇宙関連の技術開発に興味があるなら、 International Space Apps Challenge(以下ISAC)に 行ってみるといいだろう。ISAC は、NASA 主催のも と世界で同時に開催されるアプリ開発イベントだ。今 年は95 都市、8192 名が参加した。たった2 日間で、 その場に集まった人だけで、アプリを開発し、世の中 をちょっとよくすることを目指す。今年は4 月12 日と13 日の2 日間開催され、今年で3 回目になるイベ ントだ。2日間だけでも他のことを一切忘れ、アプリ 開発しかやらない状況に身をおくことができる。言い 訳をすべて排除し、ものづくりに打ち込める。手が止 まっていた人も動くようになるだろう。

 

今年のChallenge

ISAC 東京2014 年大会は、東京大学駒場リサーチ キャンパスにて行われた。集まったのは150 名近くの 人々。属性は本当にバラバラで、学生、大学院生、ポ スドク、企業づとめのエンジニア、フリーのエンジニ ア、デザイナーなどが参加していた。初日の冒頭に、 あらかじめアイデアの素を考えた人が20 個近い課題 をプレゼンテーションし、その場でどのアイデアに参 加するかを選んでいくことでチームが形成された。

開発プラットフォームは各チームが自由に選ぶこと ができる。この東京大会だけのポイントとして、協賛 企業から2種類のハードウェアが提供された。1つ はエプソン社のスマートグラス「MOVERIO」。ヘッドマウントディスプレイと違い、メガネとして装着 するとディスプレイの向こう側に実世界が見えるの で、AR 的な活用が期待されているデバイスだ。もう 1つがフィリップス社のLED 照明「hue」だ。Wi-Fi やインターネット経由のオン・オフだけでなく、色の 切り替えを行えるというユニークな照明だ。IoT をわ かりやすく体現している製品といえる。これらのハー ドウェアを自チームに持ち帰って、さっそく机を囲ん でPC を開き、開発をはじめるチームたち。チームに よっては夜を徹しての作業が続き、翌日の夕方に出来 上がったアプリをプレゼンしていた。

 

優勝のポイントは

最優秀賞は、ACE 探査機の太陽フレアデータをリア ルタイムで取得し、日常的に降り注ぐ各種宇宙線の種類や強さをMOVERIO やhue、AR の画像認識やア プリを通して知ってもらえるソリューションを開発し た「チーム★インベーダ」が選ばれた。2 位には、衛 星しずくの降雨データとウイルス生存率の関係にもと づき感染率を算出、感染者の報告データとあわせて地 図上にインフルエンザの流行状況をリアルタイムに表 示するシステムを開発した「みんなで見よう、インフ ルエンザ・ハザード」が選出された。この2 チームは グローバル審査に進出し、グローバルアワードを競う ことになった。両チームとも馴染みの薄い宇宙のデー タを、わかりやすく、役に立つ見せ方を開発した点が 共通点といえる。

入賞を逃したプロジェクトもハードウェア連携に積極的で、MOVERIO やhue だけでなく、昨年の優勝 プロジェクトであるデジタル地球儀Personal Cosmos と連携したプロジェクトもあった。総じてハードウェ アを通じて宇宙を身近に感じることができるプロジェ クトが多く見られたというのが印象的だった。

 

受け継がれるアポロ13 号ミッションの教え

ではどうしてNASA やJAXA がこのようなイベン トを用意してくれるのだろうか。それはNASA の「最 初のApps Challenge」の精神を現代に受け継ぐため だという。最初のApps Challenge とは、アポロ13 号の事故からの生還のことだ。アポロ13 号は、航行 中に2 基ある酸素タンクのうちの1 つが突然爆発する という事故がおき、本来の月ミッションを放棄して、 一刻も早く地球に帰還しなくてはならなかった。この ときアポロ13 号に乗り込んでいた宇宙飛行士、管制 センターは一丸となって不測の事態を乗り越えること になった。思いもよらないメンバーと、予想もしなかっ た問題に対して、予想もしなかった解決策を編み出さ なくてはいけなかったという状況こそが、Challenge であるとNASA は伝えている。

思い返せば、この2 日を目撃するまでは「2日で動 くものができる」なんて本当か実際に懐疑的だったが、 すべてのチームが「今までにないアプリ」を仕上げる 様子をみて、この心配は吹き飛んだ。そして、筆者も 何か作りたい気持ちでいっぱいになった。ぜひ、宇宙 に関連する何かを作り始めたい人は来年のハッカソン に参加してみてほしい。

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