からだの中で起こる ミクロの伝言ゲームを解き明かせ 鈴木 健二

からだの中で起こる ミクロの伝言ゲームを解き明かせ 鈴木 健二
薬学部 薬学科(2015年度より創薬科学科※)鈴木 健二 教授
単元に関係するキーワード 生物「生命現象とタンパク質」

ビックリすると心拍数が上がる。ご飯を食べれば,インスリンが分泌されて糖の吸収が促進される。太陽の光を浴びれば体内時計がリセットされる。私たちのからだは,常にさまざまな「刺激」を受け,それに対する「反応」を起こしています。これは,目には見えないミクロな伝言ゲームが繰り広げられた結果なのです。

薬学部 薬学科(2015年度より創薬科学科※)鈴木健二 教授

生命はとってもエレガント

さまざまな刺激を受け取る最初の窓口が,細胞の表面に顔を出している「受容体」というタンパク質です。その中でもGPCRと呼ばれる仲間は「光」「味」「におい」などの外部からの刺激だけでなく「, ホルモン」や「神経伝達物質」といった体内からの刺激など,それぞれに対応したものが1400種類以上もあるといわれています。
この受容体が受け取った情報は,伝言ゲームのように細胞内の分子に順番に伝えられていきます。そして,遺伝子の発現制御や,別のタンパク質の機能調節を引き起こし,最終的に刺激に応じたさまざまな反応として現れてきます。つまりGPCRの働きを自在に調節することができれば,よい反応は促進し,悪い反応は止めてしまう,そんな薬の開発も実現できるかもしれません。「まるで誰かが設計したんじゃないか?と思うくらい,多くの分子が複雑に作用し合いながら,生命現象は維持されていると思いませんか?」。そんな生命の持つ美しくエレガントなしくみを解き明かすことが何より楽しいと鈴木先生は話します。

伝言ゲームはどのように進むのか?

今注目しているのは栄養素でもある脂肪酸を情報のインプットとして受け取るGPR120です。GPCRの中でも歴史が浅いため,世界中で盛んに研究が進められており,消化管では血糖値の上昇を抑えるインスリン分泌の制御に,脂肪細胞では細胞の分化やグルコースの取り込みの調節にと,組織によってまったく異なる働きをしていることなど,少しずつその全容が明らかにされてきました。先生は,特にGPR120から伝わった情報が,その先に広がる複数の経路をどのように使い分けているのか,その解明に挑んでいます。
細胞内の伝言ゲームでは,さまざまな方法で情報が伝わっていきますが,そのひとつが「リン酸化」と呼ばれる化学反応です。先生は,遺伝子組換え技術を駆使して,少しずつ構造が異なるGPR120をつくり出し,細胞内でリン酸化の様子を調べました。そして,リン酸化が起こる部位の違いを明らかにし,それが経路の選択にかかわっていることを突き止めたのです。

興味の先に応用を見据えて

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「このタンパク質をターゲットにした薬はすでに開発が進められています。でも受容体に多様な機能があるということは,薬の可能性はひとつではありません」。まだまだ解明すべき謎が多く残されているGPR120の伝言ゲーム。複雑なしくみを解き明かしていくことこそが,私たちの手元に新薬を届けるための近道になるのです。実験は,あくまでも「ひとつひとつの小さな疑問に対する答え」を模索・検証するためのもの,という先生は,その全容解明に向けて,今日も実験を続けます。

※届出書類提出中,収容定員増加の認可申請中