景観デザインからの問題解決「ランドスケープアーキテクチュア」に魅せられて 武田 史朗

景観デザインからの問題解決「ランドスケープアーキテクチュア」に魅せられて 武田 史朗
理工学部 建築都市デザイン学科 武田史朗 准教授
単元に関係するキーワード 地学「自然との共生」

 建築の設計を志したきっかけは,高校のときに修学旅行先で見た法隆寺でした。「人の手で緻密に組み上げられ,周囲の景観と一体になった伽藍が今も残り,人に感動を与えている。その姿を見て,かっこいいと思ったんです」。そして今,「建物」だけではなく,その周りの「環境」を合わせて考える新しい学問分野への挑戦をしています。

建物と環境がつくる「心地よさ」

理工学部 建築都市デザイン学科 武田史朗 准教授従来,「建築」は建物の使い方や必要な強度から構造,デザインを考えるものでした。武田先生は大学を卒業し,建築設計事務所で仕事をしていた頃,ひとつの疑問を持ちます。「団地をつくるような大規模な計画で重要になる屋外の空間について,建築の設計事務所は十分な設計ノウハウを持っていませんでした。住民同士の交流や,健康かつ安全な生活をつくるため,周辺環境の設計についても学ぶべきなのでは?と考えたのです」。建物と屋外環境を合わせて設計することで課題解決を目指す「ランドスケープアーキテクチュア」という考えに出会った先生は,学びを深めるためにアメリカ留学を決意しました。

キャンパスは街である

今,先生は大学のランドスケープデザインに挑戦しています。学生,教職員へのヒアリングを通して,既存の校舎には,他学科の学生どうしが交流したり,自然を感じながら休憩したりするスペースがもっと必要であることがわかりました。そこで3学科が入る新校舎「トリシア」では,2つの研究棟を大きな階段広場でつなげた立体的な中庭をつくりました。壁がなく,大きな天窓を備えるこの空間は,太陽の光が降り注ぎ,外の風が吹き抜けるため,学生たちがゆったりと話し合える空間になっています。
さらに,2015年茨木市にできる新しいキャンパスの設計にも携わっています。大学を学生・教職員だけでなく市民にも開かれた場所にし,防災空間としての機能も備えるべく,隣接する市の公園との境をなくしました。「大学も学生や教職員や地域住民など,いろいろな人が利用する街のようなものです。快適で,研究も気持ちよく進んでいく街を創りたいですね」と先生は語ります。

学びを伝え,知の循環を創りたい

takeda_iデザインの研究や設計の実務に携わる一方,力を入れているのが教育です。留学して感じたことは,ランドスケープアーキテクチュアについて海外で交わされている先端の議論が,日本にまったくといっていいほど伝わっていないということでした。「日本人にも知的好奇心はあるのに,言葉の壁が知ることのじゃまをしている。私自身が既存の設計概念に疑問を持ち,学んできたように,もっと多くの日本人,特に若い学生たちが最先端を学ぶきっかけをつくりたいのです」。先生は,日本に戻ってから,諸外国の事例をまとめた教科書を作成しました。ランドスケープアーキテクチュアは,街そのものが教材。「いい景色だな」「住み心地がよさそうだな」と感じた場所には,学ぶべき要素が必ず隠れています。かつて自分が法隆寺に感動したように,誰かの心に感動を起こし,学びの種を植えたい。その気持ちで,今日も先生は活動を続けます。