米国NCIより:海を超え、研究の最前線で、 病の解明に挑む 遠藤 好美

米国NCIより:海を超え、研究の最前線で、 病の解明に挑む 遠藤 好美

遠藤好美さんは、アメリカの国立がん研究所のスタッフとして発がんに 関連する細胞内シグナル伝達の研究を行っている。当初研究者としてのキャ リアは考えていなかったという遠藤さんが、臨床医から研究者へとキャリア をシフトさせたのは、世界中からハイレベルな研究者が集まるアメリカの 刺激的な研究環境だった。以後十数年、現在も世界の第一線のアメリカで、 医師として、研究者として、病に挑み続ける研究者の姿を追った。

Greer 遠藤 好美さん 博士(医学)
米国国立がん研究所 スタッフサイエンティスト

|プロフィール
1994年東北大学医学部卒業、同医学系大学院にて腎臓生理学の研究を行ったの ち1998年渡米, 米国国立糖尿病・消化 器・腎疾病研究所に客員研究員として所 属。2001年から米国国立がん研究所に異動。2004年からはジョージタウン大学メディカルセンターにリサーチインス トラクターとして所属。2006年よりリ サーチフェローとして再び国立がん研究 所へ戻る。2009年から同スタッフサイエンティストとして現職。

 

留学先で訪れた転機

遠藤さんは、東北大学医学部を卒業 後、内科医としてキャリアをスタートさせた。当時大学院生の彼女に米国国立衛生研究所の腎疾病研究所へ留学のチャン スが訪れたのは4年後。研究室の先輩たちは、海外留学しても2-3年で帰国し 医師のキャリアを再開していたので、「渡米当初は自分も数年で帰国するものだと 思っていました」という。しかし、事態 は予想外の展開をみせた。「所属した研 究室では、細胞分子生物学や生化学など、 日本で私が行っていた生理学研究とは全 く違う手法で活発に疾患の解明に取り組んでいました。生理学を続けることも可 能でしたが、これは学ばなければと身震 いしました」。生体生理機能の解明から、分子レベルでのヒトが生きる仕組みの解 明へ。留学は、まさに「人生のターニン グポイント」だった。異国の地で、遠藤 さんの研究者としてのキャリアがスター トしたのだ。

 

細胞内シグナル伝達が開いた扉

遠藤さんはそれまで研究経験のなかっ た分子生物学と生化学を学びなおし、腎 臓の血液循環のほか、発がんにも関連す る遺伝子Cyclooxygenase(シクロオキ シゲナーゼ)-2の転写制御解析研究を2 年ほど行った。そのうちに第2の転機、 Wnt(ウィント)タンパク質に出会うこ とになる。このタンパク質は細胞膜上の受容体と結合することで、様々な細胞内 シグナル経路を活性化させる。このWnt シグナルは細胞運動や細胞内の物質の分布、転写促進因子の生成に関わり、がん をはじめとする多くの疾患への深い関与 が示唆されている。「Wntについての急速な研究の発展ぶりに衝撃を受け、その 重要性に大変惹かれました。そして、こ のテーマを扱う研究室を訪れ、是非一緒 に研究させてくれ、と願い出たのです」。 こうして2001年、遠藤さんは 国立がん 研究所に異動した。まだWntタンパク 質の精製技術も確立されていない時期 に研究を行うのは簡単ではなかったが、 Wntがほ乳類細胞で細胞内骨格や細胞 運動を制御するメカニズムを解明、報告 した。その後、2006年には常勤研究員 に着任、ヒトの腫瘍細胞での研究を行っ ている。疾患を治す「鍵」との出会いか ら13年、現在に至るまで、遠藤さんはWntタンパク質と関連因子の研究を続 け、分子生物学から病の克服を目指しているのだ。

 

意思と自信がつくる自分の場所

現在はCasein Kinase(カゼインキナーゼ)という酵素の役割について追い かけている遠藤さん。「アメリカの研究所では、出身国籍が問われることはあり ません。すべては実力次第なのです」と 話す。常勤の政府職員となった今でも、 4年に1度は厳しい審査を受けるという。「個人の研究成果だけでなく、チー ムプレイヤーとしての役割や、共同研究 状況、後継者の教育など、多角的に評価 されます。でも最近は自分の強み、弱 みがわかってきたので、プレッシャーで はないですね」。 アメリカでのキャリア開拓は「決して楽ではなかった」と振り返りながらも、 帰りたい、と思ったことは1度もない。 「常にハイレベルな科学者が切磋琢磨し、 研究室同士の垣根も低く、頻繁にオープ ンな議論が交わされ、自分たちの知見が どんどん深まるのを実感できます。研究 に対する高いモチベーションを維持しや すい環境だと思います」。遠藤さんが自 ら選んだ場所、アメリカでのこれからの 闘い方に期待したい。 (文 芳村美佳)