大学に変革を、研究者に起業家マインドを-文部科学省グローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム)

大学に変革を、研究者に起業家マインドを-文部科学省グローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム)

文部科学省 科学技術・学術政策局 産学連携・地域支援課
課長補佐 中澤 恵太 さん

|プロフィール|
2002年に文部科学省入省。研究開発局開発企画課、高等教育局学生支援課等を経て、2010年より3年間大阪市役所に出向し、大阪駅北口
の再開発計画(グランフロント大阪ナレッジキャピタル)に携わる。昨年7月から現職において、産学官連携全般、特に大学発ベンチャー関連施策を担当。

アントレプレナーシップを鍛える教育は、高度専門人材育成の拠点、大学でも始まっている。文部科学省により推し進められているのが、専
門知識と研究開発力がある若手研究者や大学院生に起業家マインドや事業化志向といった武器を持たせ、起業家や、産業界にイノベーションを起こす人材へと育成する「グローバルアントレプレナー育成促進事業」だ。このプログラムで、大学は将来、アントレプレナーが積極的に若手研究者に関わり、ビジネスも学べる場所に変わっていくかもしれない。

変わりゆく大学の役割と課題

博士課程に進んだ人に将来の進路を尋ねると、「アカデミアか企業の研究所で研究職に就きたい」と答える人は多い。しかし、「ベンチャー企業に就職したい」という人は少ないのではないだろうか。ベンチャー企業はそれだけ専門性の高い人材に身近でないことの証だろう。現代の大学が「知の拠点」として人材育成、地域再生の核、イノベーションの創出、など多くの機能を期待される中、「今強化するべき課題は自ら起業したり、ベンチャーに飛び込むようなアントレプレナーシップを持つ人材を育てることだ」と話すのは、文部科学省科学技術・学術政策局の中澤恵太さん。安倍政権の中でも成長戦略として「ベンチャー企業の支援」を掲げているが、日本の起業活動率は世界の中でも最下位クラスだ。特に、シーズプッシュになりがちな大学発のベンチャーは、販路や市場の開拓に課題があり、拡大が難しい。また、大企業やアカデミアの研究職を希望する多くの専門人材の目は、ベンチャー企業には向いていない。このままでは新しい事業を生み、市場をつくっていくために欠かせないベンチャー企業を多く生み出すことはできない。こうした現状を、中澤さんは「起業を支援する人材や起業経験者が大学の中にいないことが原因だ」と見る。

起業家に触れる環境をつくる

このたび大学の中に導入されるグローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム)では、金融機関、商社、ベンチャーキャピタルに所属する人やシードアクセラレーターなど様々な人材と一緒に問題解決型学習を進めながらアントレプレナーを大学の中で育成する仕組みをつくる。「何人育成したかより、上記の人たちの居場所を大学につくることが最終的な狙いです」という。このプログラムを実施することで大学の中でアントレプレナーシップを持つ人材との交流が起こり、起業家志向のある人材の教員や職員としての採用、教員の育成や継続的に交流できる仕組みづくりができることを期待しているのだ。ニーズに基づいたビジネスの考え方や、デザイン思考を学べるカリキュラムを通じて研究者が事業化ノウハウやユーザーの視点を知り、社会を意識したビジネスを大学から生めるかもしれない。また、研究に専念してきた研究者が、ベンチャーまわりの人材と直接対面で交流していくことで、「起業という選択肢がリアルにある」ことを意識できるかもしれない。

起業家マインドで研究力を高めよう

博士後期課程の学生に自らの強みを聞くと、「専門分野の先端的な知識や研究力」が挙げられる一方で、身につけたい能力として「専門知識を様々な問題に活用できる応用力・複数の分野を融合できる方法論」が挙がるそうだ。大学で身につけてきた力と産業界で求められている力にギャップがあることを肌感覚で感じとっているのだろうか。こうした力を身につけるきっかけとしても本プログラムは期待できる。「このプログラムで育った人材が起業家になったり、産業界に輩出され、また大学に戻ってきてくれるような循環をつくりたいですね」と話す中澤さん。課題を抽出し、新しいアプローチ方法を生み出し、実行するビジネスの方法論や新しい事業を推進していく起業家マインドに触れることは、あなたの研究力も高めてくれるに違いない。8月、今年度の採択校13校が決定した。自分の専門性を広く世の中に還元したい、というパッションを持つ人は、各大学のプログラムに参加してみよう。