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世界初!高エネルギーニュートリノの観測に成功 ~次の一歩は町工場の技術力がカギ~研究活性化計画『EngGARAGE*04』

世界初!高エネルギーニュートリノの観測に成功 ~次の一歩は町工場の技術力がカギ~研究活性化計画『EngGARAGE*04』

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千葉大学大学院理学研究科附属 ハドロン宇宙国際研究センター 准教授 吉田滋さん

日本より遥か南方、氷河で覆われた南極大陸で2011 年からニュートリノの観測が行われている。そのプロジェ クト名はIceCube。総予算280 億円、アメリカを中心とした日本を含む計8 か国の国際共同研究プロジェクトだ。 日本はこの中で高エネルギーニュートリノの観測に初めて成功し、存在感を示した。次に狙うは更なる観測範囲 の拡大。そこには日本の町工場の姿があった。

 

南極の氷で高エネルギーニュートリノ観測

ニュートリノは電荷を持たず、物質ともあまり反応し ない性質を持つ。そのため非常に小さな確率で水分子 と反応し放射されるチェレンコフ光を、光検出器であ る光電子増倍管を用いて検出することでニュートリ ノの存在を確認する。スーパーカミオカンデは、地 下1000m に設置した水槽に超純水5 万トンを満たし、 約12000 本の光電子増倍管を設置したニュートリノ観 測装置である。この装置によりニュートリノの観測に は成功したが、一方で宇宙物理学者はさらに何桁も上 のエネルギーを持つ高エネルギーニュートリノが存在 することを予測していた。しかし高エネルギーニュートリノは予測される存在量が極めて微小である。そ のためより大きな観測装置、つまりスーパーカミオカ ンデを超す大きな水槽が必要となる。この難題を南 極の氷を巨大な水タンクとして捉え、解決したのが 2011 年より開始されたIceCube プロジェクトだ。プ ロジェクト名にもなったIceCube と呼ばれる球形の 観測器を南極の氷中に浮かべ、チェレンコフ光を検出 しニュートリノの観測を行う国際共同研究プロジェク トである。日本グループのリーダーである千葉大の吉 田先生は、プロジェクトの中核を担うべく、ニュート リノ観測と合わせて光検出器の開発を買って出た。吉 田先生は光電子増倍管をスーパーカミオカンデで実績 のある株式会社浜松ホトニクスと共同で開発し、さら に得られる光の密度、角度ごとの差を全て調べあげシ ミュレーションプログラムを構築することで、光検出 に関するハードとソフト、両面を開発する役割を果 たした。そして2012 年、高エネルギーニュートリノ の観測に世界で初めて成功し、2013 年には学術雑誌 Science に投稿することができた。

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光観測から電波観測へ

IceCube では光を検出しニュートリノの観測を行っ ている。この手法はニュートリノの検出力が高くクリ アなデータが取りやすい。そのため観測3 年目以降も データの解析を行い、さらに新しい結果を出していく 予定だという。その一方で吉田先生は新しい取り組み を始めている。高エネルギーニュートリノの観測数を 増やすためには、IceCube よりさらに観測範囲を広げ る必要がある。そのためにコストが低い新しい高エネ ルギーニュートリノ観測器を作りたいと考えているの だ。そのアイデアはデータを観測、分析しているとき に閃いた。IceCube で得たニュートリノが氷とまれに 衝突したときに出すチェレンコフ光を実際に観測して みると、電波領域まで伸びていることが明らかとなっ たのだ。ならばチェレンコフ光を観測する代わりに電 波を観測するアンテナを作ればよい。アンテナであれ ば製造コストはIceCube の約10 分の1。アンテナで の観測が実現すれば、観測器を増やし、現在より広い 範囲で観測が行えることになる。

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出会いは「江戸っ子1 号プロジェクト」

アンテナを作るアイデアは生まれた。しかしアンテ ナが設置されるのは南極の氷中と極めて特殊な環境 だ。アンテナを含む検出機器の容器は、電波の観測を 阻害しない材質であること、さらに水圧にも耐え、マ イナス20 〜30 度に耐えることが条件となる。「どこに 頼めばそんな容器を作ってくれるだろうか」。吉田先生 の模索が始まった。吉田先生はインターネットで「金 属加工」、「材料」など様々な検索ワードを入れ、請け 負ってくれそうな企業を探した。そんな模索の中、同 じ研究室の研究者から「江戸っ子1 号」の話を聞いた。 江戸っ子1 号プロジェクトは、中小企業5 社と大学、 研究機関が連携し日本海溝8000m の超深海の探査を 目指すロボット開発プロジェクトだ。深海8000m と いう、南極大陸にも似た極限環境の中で水中撮影を可 能にする技術開発力。「センスとして似ている」と吉 田先生は直感した。そこで江戸っ子1 号プロジェクト に関わる町工場を調べあげ、目に留まったのが、金属 加工の株式会社浜野製作所であった。吉田先生がコネ クター部分などの寸法、大まかな図面を書き、浜野製 作所はその情報を基に形状や加工法を提案しながら作 成と二人三脚の開発だ。2014 年5 月現在、試作品の 完成までこぎ着け、これから本格的に予備実験を行う 予定だ。「実際の検証はこれからなので、結果がどう かはまだわかりません。でも開発過程でストレスはあ りませんでした。あえていうなら受発注の書類作りく らいですかね」。

吉田先生が以前在籍していた海外の大学では立派な 工場があり、研究者のハード面を支えていたという。 一方日本では研究者の要求に応える工場を併設する大 学は少ない。そのかわり日本には町工場がある。町工 場がその役目を担えるのではないか。研究者と町工場。 2 つの出会いが新しい一歩を生み出すかもしれない。

千葉大学大学院理学研究科附属 ハドロン宇宙国際研究センター

http://www.icehap.chiba-u.jp