ヒューマンカロリメーターで実現する長期間・高精度のエネルギー代謝量測定 徳山薫平
筑波大学大学院人間総合科学研究科 スポーツ医学専攻
徳山薫平
消費カロリー数や脂肪燃焼量などのヒトのエネルギー代謝量は、個人の健康状態を示すだけではなく、睡眠・加齢といった生理現象や運動・食事などの行動が生体に与える影響を知るうえで重要な手がかりとなる。筑波大学の徳山薫平教授がエネルギー代謝研究に用いるヒューマンカロリメーターは、日常生活に近い環境下で1分ごとの代謝量が測定できる世界一の精度をもつ。
ヒューマンカロリメーターとは
従来、エネルギー代謝量の測定では、呼気ガス採取用のマスクを着用する必要があり行動が制限されるため、睡眠や食事等の解析には向かず、測定できることが限られていた。ヒューマンカロリメーターは、高気密の部屋の中で、呼気によってわずかに変化する酸素量、二酸化炭素量等の変化を捕えることができる装置だ。室内は、居住性が十分に考慮されているため、被験者は快適な空間の中で 24 時間以上の日常生活をしがらエネルギー代謝の測定を行うことができる。さらにこの装置の特筆すべき点は、非常に高精度な分析機器と組み合わせたことで、1分ごとの代謝量を測定可能なことだ。
見えてきた新事実
そうした特長を活かし、これまで知りえなかった新事実を明らかにしている。従来のエネルギー代謝量測定ではマスクをつけるため、長時間の測定が難しく、主に運動中のデータを計測していたが、徳山教授は、この装置を用いて運動中だけでなく運動後も 24 時間連続して測定を行った。その結果、脂肪の燃焼が運動後も続くことや、朝食前の運動が最も脂肪を燃焼させるという事実が明らかになった。また、ガスを発生しない機材であれば室内に導入できる利点を活かし、脳波計と組み合わせることで、睡眠深度の変化によってエネルギー代謝量にも変化が起こることを明らかにしたのだ。
求む、異分野との共同研究
ヒューマンカロリメーターには、2000 年に国立健康・栄養研究所に初めて導入され、そのデータをもとに食事摂取基準が見直されたという実績がある。その後は筑波大学をはじめ、日本国内に 12 か所の導入実績があり、上記に示した以外にも様々な応用例がある。最近では機能性食品の脂肪燃焼効果測定なども手がけ、食品科学、創薬研究の分野からも注目を集めている。しかしながら、徳山教授はこの世界最高精度のヒューマンカロリメーターのポテンシャルはまだ十分に発揮できていないと考えている。異分野との共同研究によりその真価が発揮され、さらなる新事実が明らかになると期待しているのだ。
出展:『AgriGARAGE』07号、17ページ