再生医療技術の社会還元を目指して進む再生医療イノベーションフォーラム from 「BIO GARAGE」vol.22
2013 年11 月27 日に再生医療等の安全性の確保等に関する法律案および薬事法等の一部を改正する法律案が公布され、今年同日までに施行される。この動きの中、産業界でも企業が連帯する動きが生まれている。今回、一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)の運営委員長を務める横川拓哉氏および事務局の髙橋稔氏、松田直人氏に、再生医療にかける産業界の視点と現状を伺った。
オールジャパンで再生医療の産業化を推進する
FIRMは再生医療の普及、産業化を目指した団体である。再生医療に現在携わっている企業だけでなく、今後関わる意志があれば加入できるオープンな組織であり、設立当初は14社だった構成企業は3年経った今100社を超えている。その構成員は、再生医療ビジネスを行っている会社の他、製薬企業や化学メーカー、機械メーカー、物流企業、保険会社等、様々だ。彼らが規制制度部会、医療経済部会、サポーティングインダストリー部会、標準化部会の4つの部会に分かれ、再生医療の産業化に向けた課題を検討している。
「電子産業などと異なり、この業界は良い技術があっても、法規制や医療経済の問題からなかなか広がらないことがあります。将来的に生じうる課題を予測し、再生医療の速やかな普及を促進するため、オールジャパンの体制を作るべくFIRMは立ち上がりました」と髙橋氏は設立の背景を話す。FIRMの目的は、再生医療研究の成果を安全かつ安定的に提供できる社会体制をタイムリーに構築することだ。製造承認や薬価の問題、周辺装置や試薬類の安全審査等のしくみの他、細胞を扱う人材の育成スキームをどう構築していくかといったことも視野に入れているという。「医療の産業化というと誤解を招きやすいのですが、世の中の患者さんが容易に最先端の治療技術を享受できる社会を作るのが目標です。それを実現するため、技術や支援を提供する企業がビジネスを継続できる枠組みを作る必要があるのです」。
激化する競争の中から、
世界戦を仕掛けるチャンスが生まれる
今年11月の法案施行以後、日本は世界で最も再生医療実用化を進めやすい国になると言われている。この状況は日本の企業や研究者にとって、新たな競争を生み出すことにつながるだろうと横川氏は言う。「海外の企業が、海外の成果を元にした技術をもって、日本で開発を進めるという可能性もあるのです」。一般的に、最新の研究成果に関する情報は論文や学会発表等で追いかけられているが、海外の企業がどのような技術を持ち、実用化しようとしているかといった企業の競争ポジションについては、きちんと把握することが難しい。法改正によって技術の競争が激化し、よりよい技術が生まれる土壌ができる。それ自体は最終的な受益者である患者にとっては良いことであるが、日本の企業が戦っていける状況を作ることもFIRMの使命なのだ。「現状の医療関連製品は医薬品と医療機器が2大カテゴリになっています。特に医薬品に関して日本企業は出遅れており、輸入が多い。再生医療は、世界に新たな勝負をかけるチャンスでもあります」。今はまだ少数のパイオニア企業が開発を進めている段階だが、参入企業が増え、実績が出てくれば、アカデミアでのiPS細胞研究に多額の予算がついたように、再生医療産業にも国の支援が見込まれるのではないだろうか。
競争の渦中に飛び込み、新たな医療を生み出そう
横川氏は、再生医療を取り巻く現状とこれからを様々な分野の研究者にとってもチャレンジの場だと話す。「サイエンスの世界から次々と新しい発見、技術が生まれている未成熟の業界のため、これまでの医薬品、医療機器よりも変化が速く、爆発的な技術変革のチャンスも残っています。熱い思いと新しい発想を持った研究者たちが、企業と手を組んで実用化を進めるチャンスではないでしょうか。チャレンジ精神を持った研究者こそが、企業にとって本当のシーズになるのです」。
法改正により、これまで医療機関でなければできなかった細胞加工を、企業が実施できるようになる。また再生医療等製品に関しては有効性が推定され、安全性が認められれば、条件、期限つきで特別に早期に製造販売承認を得ることが可能となる。「大学と企業との連携により治療技術の開発パイプラインを増やしていき、順次市場に出していくという流れができれば、患者、研究者、産業界にとってWin-Win-Winになります」。これまでと全く違う医療市場に、柔軟な発想を持つ研究者やチャレンジングな企業を集め、スピーディな開発と上市を進めることで、そこにファンドなどから新たな資金が流入し、さらに産業が拡大していくだろう。その状況を作り、成熟した安定企業もこうした新規の分野に参入して、一緒に業界を盛り上げていく環境を作っていくのもFIRMとしてのミッションのひとつだという。まもなく、再生医療をキーワードとして、日本を舞台に大きな変革が起きるはずだ。その中で、どのようなビジネスを生むか、そして患者にどのような価値を与えていけるか。それを担うのは、そこに飛び込む意志を持つ研究者と企業なのだ。