高地トレーニングは,短距離選手にも有効?? 後藤 一成
スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 後藤 一成 准教授
単元に関係するキーワード 生物「筋収縮とタンパク質」
よくマラソン選手が行なっている高地トレーニング。酸素濃度が低いところでのトレーニングに慣れることで,低地に戻ったときの持久力が高まると考えられています。しかし近年,選手の持久力評価に用いられる最大酸素摂取量には必ずしも変化がみられないことがわかりました。では,選手のからだにはどのような変化が起こっているのでしょうか。後藤先生は,「低酸素室」と呼ばれる,空気中の酸素濃度を通常の21%から15%まで下げることができる部屋を使って,その解明に乗り出しました。
低酸素室内でエアロバイクを繰り返し全力でペダリングするトレーニングを4週間にわたって継続し,血中のタンパク質やホルモンの分泌物濃度を測定し続けました。その結果,予想に反して「パワー発揮能力」が大きく向上することがわかったのです。つまり
,マラソン選手のような長距離種目だけでなく,短距離や球技選手にも活用できる可能性があります。さらに,体内ではインスリン感受性が高くなり血糖値が下がりやすくなるという変化も起こっていました。このことから,低酸素トレーニングには健康増進の効果もあるのではと期待されています。
このように,まだ解明されていないことの多い,私たちのからだのしくみ。全身の筋肉や関節,骨,内臓や皮膚など器官,タンパク質やホルモンなどの分泌系が協調して働いており,まるで精密な機械仕掛けの人形のようです。スポーツ健康科学という新たな分野が発展することで,その能力を最大限に引き出すための秘密がひとつずつ解き明かされていきます。
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柔道の選手だったとき,どうすれば自分を上手に鍛えられるのか,からだの中で何が起こっているのかという,ふつふつと湧き上がる疑問があり,大学院で理系へと進みました。元選手としては,プロのトレーニングにも興味がありますが,やっぱり一番うれしいのは多くの人の健康に役立つときですね。よく文系か理系かと聞かれますが,胸を張って「体育会系!」と答えています。「理論と実践」に基づく研究を続けることで,研究者とスポーツ指導者・スポーツ選手のみなさんに向けて,新たな視点からの研究成果をメッセージとして発信していきたいですね。