垂直軸型マグナス風力発電機で、世界中に安心・安全な電気を供給する 清水 敦史
再生可能エネルギーのなかでも、ポテンシャルが評価されている風力発電。しかし、既存のプロペラ式風力発電機のかたちには100年間大きな変化がない。そんな風力発電にイノベーションを起こそうとしているのが、「垂直軸型マグナス風力発電機」という次世代風力発電を開発する株式会社チャレナジーだ。
100年続くプロペラ式に代わる、新発想の「羽根」
人類は古くからプロペラ式の風車により自然の力を利用してきた。1891年に世界で初めて開発された風力発電機も、現在世界最大の出力を誇る8MW機も、大きさや効率に違いはあれど、見た目は同じプロペラ式だ。しかしながら、バードストライクや、強風によるプロペラの暴走・落下といった事故にみられるように、安全性には課題が残る。また、プロペラが破損してしまった場合、風力発電機の2割を占めるといわれるパーツの補修コストを賄えず、風力発電機自体が放置されてしまうケースもある。こうしたプロペラの課題を解決する技術として期待されるのが、清水さんが提案する垂直軸型マグナス風力発電機だ。
大企業も挑戦し実用化に至らなかった技術のブレークスルー
垂直軸型マグナス風力発電機は、プロペラの替わりに、自転する円筒で構成されている。その原理は、自転する円筒が風を受けると、風の向きと垂直方向に揚力が発生する「マグナス効果」という、野球のカーブボールなどと同じ現象に基づいている。薄い上に形状が複雑なプロペラを円筒に置き換えることで、丈夫になり、製造コストも抑えられる。また、垂直軸型の採用により360度方向から受風可能となり、さらに重心が低くなるため安定性が高く、洋上風力にも適する。過去に三菱重工業や関西電力といった大企業も垂直軸型マグナス風力発電機に目を付け特許を出願しているものの、現時点で実用化には至っていない。実は垂直軸型マグナス風力発電機には技術的な壁があった。風上にある円筒と風下にある円筒、それぞれに発生するマグナス力の向きが同じなので、風車の回転力としては逆になり打ち消し合ってしまうのだ。清水さんは “自転方向が逆の2つの円筒を組み合わせる”という発想で、独自のブレークスルー技術を発明した。「理論的には効率面でも安全面でも既存の風力発電を上回る。また、万一の場合でも、円筒の自転を止めてしまえば確実に停止できる。さらに、円筒の自転を適切に制御することで、“台風発電”も夢ではなくなる。」と清水さんは語る。
原発に依存せず世界の無電化地帯をなくす
「風力発電にイノベーションを起こし、全人類に安心安全な電気を供給する」。そう思い立ったきっかけは、東日本大震災に伴う原発事故だ。その日を境に原発に対する考え方が変わり、無電化地域も含めてエネルギーシフトを加速させ、原発に頼らない持続可能な社会をつくりたいというビジョンを抱くようになったと語る。自宅マンションで研究を開始し、DIYで試作機を作製して実際に回転することを確認。独力で特許を書き、国内での特許出願・登録のみならず、世界中の国際特許出願にこぎ着けた。
実用化に向けたチャレンジ
2014年3月にリバネスが主催した「第1回テックプラングランプリ」に出場し、見事最優秀賞を受賞。10月1日に株式会社チャレナジーを設立し、念願の法人化を果たした。10月末には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する研究開発型ベンチャー支援事業の「スタートアップイノベーター」にも採択され、いよいよ技術の真価を問う実証フェーズへと移行している。また、グローカリンクと浜野製作所の提携によるインキュベーションプラットフォームに第1号として入居し、町工場による試作機開発のバックアップ体制も万全だ。 「風力発電にイノベーションを起こし、全人類に安心安全な電気を供給する」。そんな夢を実現するための挑戦が始まった。