石油を「分けて」「混ぜて」 新しい価値を開拓せよ 三浦 靖智
タンカーで原油が運ばれてくる様子を,教科書やテレビで見たことがあるでしょうか。ガソリンなどの燃料から,プラスチックや衣服などの石油化学製品まで,生活の中のあらゆるものに姿を変えてそばにある「石油」。私たちの手に届くための第一歩は「分ける」ことです。
すべては「分ける」ことから始まる
石油の原料となる「原油」は,さまざまな長さの炭化水素が混ざったものです。それを似た性質ごとに分けて,それぞれの性質を活かした使い方をしています。
原油を分ける方法は,理科の実験で行う「ワインの蒸留」と同じ原理です。沸点の違いを利用して,35〜180℃で気化してくるものをガソリン・ナフサ留分,170〜250℃で気化してくるものを灯油・ジェット燃料留分,240〜350℃で気化してくるものを軽油留分,それ以上のものを重油留分,最後に残ったものをアスファルト留分としています。
ガソリンは「混ぜて」つくる
国内における石油の利用目的で最も多いのは自動車用のガソリン燃料です。じつは,その原料となるガソリン留分がそのまま燃料として使えるわけではありません。まず,有害な硫黄分を除くなど品質を上げる必要があります。さらに,各留分の境界はあいまいで,原油が違うとそれぞれの温度で得られる留分の組成も違います。いくつかの留分を加えて混ぜ合わせることで初めて,ガソリン燃料として使うことができるようになるのです。
どんなときでも安全で品質の高いガソリンをつくるには,毎回同じ混ぜ方をするわけにはいきません。コスモ石油の三浦靖智さんは,もうひとつのキモである「混ぜる」技術の研究をしています。
「1+9=15」にするための工夫
最近,コスモ石油では,ポリエステル繊維やペットボトルの原料となるミックスキシレン(MX)を含めた,石油化学製品原料への石油利用に力を入れ始めました。しかし,価値の高いMXを取り出すことによって,これまで通りの燃料をつくることができなくなっては意味がありません。新しい価値を生み出すためには,残りの材料でも今まで通りの燃料をつくれるような分け方の工夫が必要です。「10のうちの1を使って6倍の価値のものをつくり,残りの9はそのままの価値を保つことができれば, これまで10だった価値を15にできる」と三浦さん。そんな技術を生み出すため研究が進められています。 (文・瀬野 亜希)