赤ちゃんの眠りから、 心ができ上がる様子を明かしたい 佐治 量哉

赤ちゃんの眠りから、 心ができ上がる様子を明かしたい 佐治 量哉

ものごとには必ず「始まり」があります。宇宙にも「始まり」があるように,私たちの心にもそれがあるはずです。しかし,自分の心がどのように始まったのか覚えている人はいないでしょう。玉川大学の佐治量哉さんは,睡眠中の赤ちゃんの脳活動を調べることで,心の始まりの謎にせまろうとしています。

心の始まり,そのカギは睡眠にある

現在の科学では,心は脳の中の神経細胞の活動によってもたらされると考えられています。私たちと赤ちゃんでは,頭の大きさは明らかに違いますが,意外なことにその中にある脳の神経細胞の数はそれほど変わりません。ということは,脳の働きには,細胞数の増加ではなく別の要因が関わっているはずです。従来の研究では,運動や言語能力など,赤ちゃんが起きているときの行動に着目することが中心でした。しかし,生後約1年までの赤ちゃんは1日のうち半分以上を睡眠が占めており,起きている時間の方が少ないのです。そこで佐治さんは,従来の行動に加えて睡眠を調べることで,脳の働きをより詳しく知ることができると考えました。

ギザギザの波形にかくされた事実

脳に影響を与えずにその活動を調べる方法に「脳波測定」があります。頭に電極をつけて,何100万という数の神経細胞に流れる電流の合計を測ることで,脳全体の活動がギザギザした波形として表すことができるのです。佐治さんは,複雑な脳波の波形データから,計算式を使いながら神経細胞の活動レベルやパターンを解析することで,赤ちゃんの睡眠中の脳活動について明らかにしてきました。たとえば,赤ちゃんの脳が成長するにつれて,安定した睡眠を表す大きな波の割合が増えることがわかっています。

赤ちゃんの成長を脳波で知る世の中へ

佐治さんは,赤ちゃんが眠っているときの脳波と起きているときの行動の関連性とその発達の過程を明らかにすることで,生まれてからの脳の発達メカニズムを解明できると考えています。また,からだが小さく慎重に育てる必要がある早産児の脳の成熟度も,睡眠中に負担をかけずに検査することができると考えています。すやすや眠る赤ちゃん,その中ではまさに心も育っているところなのかもしれません。 (文・浜田 駿)