SmartFlare™ RNA検出プローブが 可能にする新しい細胞実験
2007年にNanoFlareとして理論が確立されて以来、製品化・発売が待ち望まれていたRNA検出プローブ、それがSmartFlareだ。
2013年にメルクより日本国内での販売がはじまり、これまで不可能だった「内在性因子によるセルソーティング」、そして「RNA発現を検出するライブセルイメージング」が可能になった。
The ScientistのTOP 10 innovations1)にも選ばれた今もっとも注目すべき技術のひとつである。
細胞を傷めず内在性因子を検出
これまで、目的とする細胞を単離して次のアッセイに使うためには、細胞表面抗原やGFPを検出してセルソーターなどにより分取してきた。内在性因子を検出するためには固定化や膜透過処理が必要になるため、ライブセルの状態で回収し次のアッセイを行うのは非常に困難だったのだ。しかし、SmartFlareがターゲットとするのは内在性のRNA。しかも試薬は数日で細胞から排出され、そのまま培養やアッセイを行うことができる。
SmartFlareは、ゴールドナノ粒子とオリゴ二本鎖から構成されている。オリゴ二本鎖は、ゴールドナノ粒子に直接結合している捕捉鎖と、それに相補的で蛍光分子が結合しているレポーター鎖からなる。蛍光分子はゴールドナノ粒子の近傍では消光状態であるが、標的 RNAと捕捉鎖との結合によりレポーター鎖が放出されると蛍光を発するようになる(図1)。このようなSmartFlareは、トランスフェクション試薬を必要とせず培地に添加するだけで翌日にはエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。細胞内を巡回し標的RNAと結合すると遊離したレポーター鎖が蛍光を発するので、これをフローサイトメトリー、蛍光顕微鏡観察、ないしはプレートリーダーによる蛍光強度解析など、様々な方法で検出するというわけだ。
生細胞単離後のアッセイが可能に
SmartFlareによる細胞分取後の解析の一例として、マクロファージ分取後の食作用のアッセイを紹介しよう2), 3)。ヒト急性単球性白血病細胞であるTHP-1細胞に対しphorbol 12-myristate 13-acetateを作用させると、Mycの発現レベルが低下し、マクロファージへの分化が誘導される。Mycを標的としたSmartFlareを用いて、Myc高発現の細胞と低発現の細胞をソーティングにより分取し(図2)、2日間培養を行った。
その後、それぞれ1000個の細胞についてGFPを発現する大腸菌の捕食を観察するアッセイを行ったところ、Myc高発現の細胞群では食作用が高まっており、生きたマクロファージを分離できていることが確認できた(図3)。さらに、単球とマクロファージそれぞれの細胞のサイトカイン発現プロファイルの違いや、LPS刺激への反応の違いについても確認することができている。
一方、このような実験を行う際に必ず考えなければならないのが、コントロールをどう置くかだろう。リアルタイムPCRでの発現解析を行う場合はβactinやGAPDHなどのハウスキーピング遺伝子をコントロールに置くことが多いはずだ。同様にSmartFlareでも、ハウスキーピング遺伝子の検出を行うためのプローブラインナップが用意されている。逆に細胞内のどのRNAとも反応しないScramble controlも用意されており、これをバックグラウンド補正に用いることが必要である。また、実績のない細胞種では、導入すると必ず光るUptake controlを使用することで、取り込み能を測ることができる。
高感度RNA検出が新たな生命現象に光を当てる
さらに次のような研究にも使われ成果を上げている。理化学研究所のローニー研究室とプレシ研究室は、リボソームに結合している翻訳中のRNAを回収し、小脳プルキンエ細胞におけるトランスラトームの網羅的解析を行っていた4)。するとmRNAとrRNAのシグナルのみが検出されるという予想に反し、いくつかの遺伝子のnon-coding RNA(ncRNA)のシグナルも検出された。その中には重要なセロトニンレセプターHTR1Bの遺伝子もあった。そこで、非特異的なシグナル混入の可能性を排除するため、生細胞でのRNA検出能にすぐれたSmartFlareを使うことにしたのだ。SmartFlareにより、プルキンエ細胞のマーカー(Pcp2)のRNAと、HTR1B遺伝子のncRNA(Htr1bos)とmRNAとが、いずれも生きたプルキンエ細胞内に存在することが確認できた。また、これらの細胞を固定し免疫染色したところ、タンパクレベルでも同様の結果が得られた(図4)。このことから、検出されたncRNAシグナルが非特異的なものではないことが確認できたので、現在その機能について、さらに解析を進めている。
以上のように、内在性因子によるセルソーティング、RNAの高感度の検出の他にも、siRNAの効果の検出、タンパク質とRNAの同時検出などにも応用できる。さらに、より繊細な操作が必要となるヒト幹細胞の多能性評価についても、Nanog等をSmartFlareで検出可能であるため、生存率高くその後のアッセイに用いることができると期待が集まる。豊富なアプリケーションの可能性を秘めるSmartFlareは、あなたの研究にも新しい知見をもたらしてくれるはずだ。
メルク株式会社 メルクミリポア事業本部バイオサイエンス事業部
[ 所在地 ] 東京都目黒区下目黒1-8-1 アルコタワー5F
[ TEL ] 0120-633-358
[ URL ]www.merckmillipore.jp
1)The Scientist 『TOP 10 innovations 2013』 短縮URL:http://goo.gl/CjMX3z
2)SmartFlare™ RNA Detection Probesのアプリケーション紹介サイト 短縮URL:http://goo.gl/FK8lDO
3)アプリケーションノート 「Detectiong gene expression in live monocytes and macrophages using flow cytometry」 短縮URL:http://goo.gl/99rBMS
4)Kratz A. et al, Digital expression profiling of the compartmentalized translatome of Purkinje neurons. Genome Res. (2014) 24(8):1396-410.