福島発、 世界を驚かせる 洋上風力実証試験 石原 孟

福島発、 世界を驚かせる 洋上風力実証試験 石原 孟

2013年11月、福島県の沖合20km地点に、ブレード(羽)の直径80m、水面からの高さ約106m、2MWの出力を持つ巨大な風力発電設備が完成した。さらに2015年度には、総出力16MWという浮体式では世界最大規模となるウインドファームが完成する。このプロジェクトにおいてテクニカルアドバイザーとして関わる東京大学の石原孟教授が、このプロジェクトの魅力と日本の進むべき未来像を語る。

オールジャパン体制で世界初の浮体式洋上ウインドファームに挑む

このプロジェクトは、経済産業省が福島の復興と新たな産業創出を目的に開始した大型プロジェクトだ。第1期実証研究事業として、2MWのダウンウィンド型浮体式洋上風力発電設備1基と、世界初となる25MVA浮体式洋上サブステーション及び、66kV海底ケーブルを設置し、第2期として、7MW浮体式洋上風力発電設備2基を新設する。プロジェクトのメンバーは、イギリスでの洋上風力発電に実績を持つ丸紅が統括役を務め、三井造船、(浮体開発)、三菱重工業(大型風車)、日立製作所(変電所開発)、古河電工(送電ケーブル)など、11機関のオールジャパン体制を敷いている。事業期間は第1期(2011〜2013年度)と第2期(2014〜2015年度)。総事業費は500億円にのぼる。

洋上風力発電には、海底に基盤を築いて風車を固定する〝着床式〟と、風車を浮かせて鎖でつないだ錘を海底に沈めて固定する〝浮体式〟の2種類がある。ヨーロッパでは20年以上前から着床式の風力発電が推進されているが、遠浅な海域が少ない日本には向かなかった。一方で浮体式は数年前にノルウェーやポルトガルで実証研究が始まったばかり。いずれも浮体式洋上風力発電設備 1 基 のみの建設にとどまっており、複数の発電設備を設置する大規模なウインドファームへの挑戦は世界初となる。

世界最大、最速、最先端のプロジェクト

東京大学大学院工学系研究科  社会基盤学専攻 教授 石原 孟 さん

東京大学大学院工学系研究科
社会基盤学専攻 教授
石原 孟 さん

このプロジェクトが世界的に注目されるのは、構想の大きさと体制だけではない。ジャパン マリンユナイテッドと日立製作所が開発した容量25MVAの浮体式洋上サブステーションは、世界初の海に浮かぶ変電所だ。古河電工が開発した66kVの高電圧を送電できる海底ケーブルも、浮体間を結ぶケーブルとしては世界初。そして、石原先生を中心に、世界初の浮体式洋上観測システムを構築し、浮体の動揺を考慮した気象・海象の観測手法を確立する試みも行われている。さらに現在、三菱重工業が進める7MW級の浮体と風車も世界最大規模。それら複数の浮体を組み合わせた設備容量は合計で16MWとなり、浮体式では世界最大規模となる。ここまで1つ1つが世界レベルの技術をまとめ、一つのゴールへと向かう取り組みは例を見ない。「ノルウェーのプロジェクトはドイツの風車を使っているし、ポルトガルは風車がデンマーク製、浮体はアメリカ製です。一方で日本の場合は風力発電設備すべてを国内メーカーで担える。しかも2012年4月の着工から1年半という短期間で第1期の運転を開始できる、世界最速のエンジニアリング力も持っている。「建設途中で戦後最大規模の台風も直撃しましたが、事故なく乗り切ることができました。これも世界で初めてです。まさに日本にしかできない、世界最大、最速、最先端のプロジェクトですよ」。石原先生は笑いながら語る。

漁業との共存を模索する

どんなに技術的に優れているものであっても、実際に社会で活用するためには、数多くの課題が立ちはだかる。その一つが既存産業である漁業との共存だ。そのため、このプロジェクトでは周辺住民との対話を慎重に進め、周辺海域環境や漁業操業形態等への影響についても調査を行っている。プラスの材料として、すでに海外において風力発電所が魚礁となり、魚類の水揚量が増えるという事例も報告されている。福島においても、浮体式風力発電所の設置に伴う新たな漁法を生み出そうというのだ。

自動車産業に次ぐ、新たな基盤産業の創出へ

25MVA浮体式洋上サブステーション「ふくしま絆」 出典元:福島洋上風力コンソーシアム

25MVA浮体式洋上サブステーション「ふくしま絆」 出典元:福島洋上風力コンソーシアム

このプロジェクトを通じて、世界で初めての浮体式洋上ウインドファームのノウハウを蓄積し、海外プロジェクトに展開することにで、福島から日本の新たな輸出産業を生み出すことができる。日本で一番裾野が広い産業は、3万点もの部品により構成される自動車産業だが、風力発電も同じく2万点もの部品を必要とする。「風力発電を低コストで行うためにネックとなるのは、必要な大型部品の輸送費です。だから風力発電の部品はできるだけ設置する場所の近くで生産することが望ましい。そうすると地元に雇用が生まれ、それによって経済が活性化する。洋上風力発電によって、エネルギーだけでなく、雇用も含めた、地域における持続可能な社会をつくることができます。」

近い将来、洋上風力発電は私たちの生活を支える基盤インフラになるはずだ。

■コンソーシアム・メンバーと役割

コンソーシアム・メンバー 主な役割
丸紅株式会社【プロジェクトインテグレーター】 事前協議・許認可,維持管理,漁業との共存
国立大学法人東京大学【テクニカルアドバイザー】 観測予測技術,航行安全性,国民と科学・技術対話
三菱商事株式会社 系統連系協議,環境影響評価
三菱重工業株式会社 V字型セミサブ浮体(7MV)
ジャパン マリンユナイテッド株式会社 アドバンストスパー浮体,浮体式サブステーション
三井造船株式会社 コンパクトセミサブ浮体(2MW)
新日鐵住金株式会社 高性能銅材の開発
株式会社日立製作所 浮体式洋上変電所の開発
古河電気工業株式会社 大容量ライザーケーブルの開発
清水建設株式会社 海域調査,施工技術
みずほ情報総研株式会社 浮体式洋上風力発電に関する情報基盤整備