風力発電で世界を制す

風力発電で世界を制す

今、世界が風力発電に注目している。国連環境計画とブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス社が発行した「Global Trends in Renewable Energy Investment 2014」によると、2013年の再生可能エネルギーに対する投資は世界中で2140億ドル、その中で風力発電は80億ドルにのぼる。世界風力エネルギー会議(GWEC) が発行する「Global Wind Report 2013」によると、2013年時点で世界の風力発電容量は318,105MWと年々増加傾向にあり、2030年までには現在の5倍強に相当する2,000GWに達する可能性を示している。

世界から注目を集める風力発電について、特に今後主流となりうる洋上風力発電に焦点をあて、世界的な動向とともに日本が進める取り組みについてレポートする。

風車の大型化に合わせて洋上風力へとシフトする世界的トレンド

出典:NEDO再生可能エネルギー技術白書

出典:NEDO再生可能エネルギー技術白書

そもそも風力発電が急速に発展している理由は、安い発電コストにある。太陽光発電が1kWhあたり35円〜45円程度であるのに対し、風力発電は10円〜25円程度。風力発電の低い発電コストをさらに引き下げ、再生可能エネルギーの主役として期待されているのが、洋上風力発電だ。洋上風力発電は、その名の通り、海上に設置した風力発電機。1年を通じて陸地よりも安定的な風を受けられる点が特徴となる。洋上風力発電では、支柱に支えられたブレードが風を受けてまわり、その回転が発電機を回して発電する。そこで発電された電気は海底に敷設された電力ケーブルを伝い、地上の電力系統の接続点に送電される。広大な面積を占める海を建設場所とすることで、風力発電設備を大型化し、1つの地点に100機近くの風力発電機を建てられることができる。それに伴い、発電量当たりの建築・維持管理費やケーブル敷設費が低減し、規模の経済性を追求できるため、ヨーロッパでは2000年前半頃から洋上風力発電に取り組みはじめ、日本でも2010年から洋上風力発電システム実証開発プロジェクトがスタートしている。

大きな雇用を生み出す風力発電システム

風力発電システムは歯車、軸受、主軸、羽根ブレード、発電機、変圧器、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維、電力ケーブルなど、非常に多くの部品により構成される。その数はおよそ2万点。裾野の広い産業として知られるガソリン自動車の部品数が3万点、電気自動車が1万点であることから、風力発電産業の裾野の広さが伺える。また、定期点検が必要であるためメンテナンス要員なども不可欠であり、GWEC(Global Wind Energy Outlook 2008)によれば、風力発電産業は1万kw当たり約160人の雇用を生み出すとの試算もある。すでにドイツでは、北部沿岸付近の一帯にシーメンス社やリパワー社、エネルコン社などのドイツ風車メーカーが発電機の生産工場を建てた結果、部品を納入する部品供給工場、材料工場、風車の設計企業、関連する研究を行う大学や、基礎土台を製造するインフラ企業、ファイナンス企業、法律会計事務所、ロジスティックス企業、展示会を主催する企業、人材研修企業、外国人技術者の子どもが通うインターナショナルスクールなどが集積する都市が出現している。

先行する欧米、猛追する中国、浮体式で巻き返しをはかる日本

世界の風車の大型化の推移 出典:NEDO再生可能エネルギー技術白書

世界の風車の大型化の推移 出典:NEDO再生可能エネルギー技術白書

2011年3月、デンマークのベスタス社は世界最大級の最新鋭機(7MW)を発表した。その他にも、6MW級の風力発電機は、ドイツ3社、デンマーク2社、フランス1社、中国1社から発表されている。一方、日本では三菱重工業が7MWの機体を開発中であるが、現状では2.4MWが最大級となるに留まり、日本は大きく引き離されている。そんな中で日本が巻き返しをはかるのが、「浮体式」と呼ばれるタイプの風力発電機だ。そもそも洋上風力は海底までの水深が深くなると、設置することは極めて困難となる。そこで基礎土台を作らず、発電機をケーブル等で係留する「浮体式」の技術開発が進んでいる。世界ではノルウェーがもっとも実証試験に熱心であり、ポルトガルやオランダ、日本でも研究がスタートしている。現在、その他の国でもいろいろな浮体式風車が発表されているものの、実験室レベルに留まっており、実証研究には至っているのはノルウェー、ポルトガル、日本の3国だけだ。日本の実証研究については、次ページで紹介する。

遠浅の海をもたない国にとって、浮体式は非常に重要な技術となる。特集の最後に紹介する株式会社チャレナジーのように、ベンチャー企業による挑戦もはじまっている。この分野での日本の巻き返しを期待したい。

▲プロペラ式風力発電システムの構成例

▲プロペラ式風力発電システムの構成例

 

構成要素 概 要
ロータ系 ブレード 回転羽根、翼
ロータ軸 ブレードの回転軸
ハブ ブレードの付け根をロータ軸に連結する部分
伝達系 主軸 ロータの回転を発電機に伝達する
増速機 ロータの回転数を発電機に必要な回転数に増速する歯車(ギア)装置(増速機のない直結ドライブもある)
電気系 発電機 回転エネルギーを電気エネルギーに変換する
電力変換装置 直流、交流を変換する装置(インバータ、コンバータ)
変圧器 系統からの電気、系統への電気の電圧を変換する装置
系統連系保護装置 風力発電システムの異常、系統事故時等に設備を系統から切り離し、系統側の損傷を防ぐ保護装置
運転・制御系 出力制御 風車出力を制御するピッチ制御あるいはストール制御
ヨー制御 ロータの無機を風向に追従させる
ブレーキ装置 台風時、点検時等にロータを停止させる
風向・風速計 出力制御、ヨー制御に使用されナセル上に設置される
運転監視装置 風車の運転/停止・監視・記録を行う
支持・構造系 ナセル 伝達軸、増速機、発電機等を収納する部分
タワー ロータ、ナセルを支える部分
基礎 タワーを支える基礎部分

出典:NEDO再生可能エネルギー技術白書

欧州 2012年8月、モーレイ・オフィショア・リニューアブル・リミテッド社はスコットランドのケイスネス海岸の南東22kmに世界最大規模のモーレイ・ファース洋上風力発電所の建設計画を政府に申請。295km2に189〜339基の風車を設置、総設備容量は150kW。2020年に試運転開始を目標。
米国 2012年10月、伊藤忠商事とGEグループが米国オレゴン州で建設していた世界最大規模の陸上風力発電が運転を開始。約80km2に338基の風車を設置、設備容量は84万5000kW。
中国 2011年3月、中国再生可能エネルギー学会風力エネルギー専門委員会は、天津で開かれた国際風力発電産業展において、すでに8つの1000万kW級風力発電所の建設が開始されたことを発表。

世界の動向(出典:日刊工業新聞社「洋上風力発電」,岩本晃一著)より抜粋