研究受託という 新しい選択肢
この10年間で生命科学の世界を考えてみると、次世代シーケンサーの登場という大きな技術的なブレークスルーがあった。プロテオミクス、メタボロミクス解析では、生体分子の検出感度がさらに向上している。また、iPS細胞の樹立や、TALEN、CRISPR/Casに代表されるゲノム編集技術の台頭など、細胞を操作するための手法も確立され、ようやく生命現象に深く切り込んでいくための要素技術がそろい始めてきた感がある。こうした実験を全て自前でできれば、それに勝ることはない。しかし現実的には、費用、人的リソース、時間など様々な制約から困難をともなう。こうした時に、外部の専門家のリソースを使って研究を推進する受託サービスは、ひとつの解決策を提供してくれる。少し調べてみただけでも、表1にあるような、膨大なサービスがある。ゲノム編集技術もすでにサービスとして始まっているあたりは、受託の対応の早さに驚く方もいるのではないだろうか。
具体的な個々のサービスを取り上げることは、紙面の関係で難しいため、読者にゆだねることになるが、後述するケースも参考にしながら、少しでも受託サービスに対するイメージを新たにしていただければ幸いである。
研究環境をセットアップするためのコストの問題
研究機器の高性能化で、機器の価格は安くても数百万、高ければ億を超えるという状況は、依然として変わっていない。次世代シーケンサー、質量分析装置、共焦点顕微鏡、NMRなど数え始めると、次々と出てくるのではないだろうか。また、こうした高額機器を利用した実験の場合、サンプル調製やデータの解釈に一定以上の専門性が求められるため、使いこなすには理解する人の確保も欠かせない。こうした研究環境の立ち上げに大きな負担がかかる場合、受託サービスは強みを発揮する。特に、次世代シーケンスやプロテオミクス、メタボロミクスといった企業からも高い精度での解析を求めるニーズの高い研究に関しては、専門のスタッフを要した受託サービスが次々と立ち上がっている。納期も数週間というレベルのものからあるため、時間を考えた時にもメリットがあるはずだ。次世代シーケンスについては、p10でも取り上げたので、ぜひそちらも参考にしてほしい。
一連の実験をひとまとめにした研究の委託
通常、サンプルの調製から解析まで行うとなると、どんな実験でも一人のスタッフが数日以上かかりきりになる。大学生、大学院生の研究では、こうしたプロセス自体が研究の理解につながるので、欠くことはできない。一方で、大型予算で決められた期間内に一定の成果を出す必要があるといったケースでは、ある程度のプロセスは研究室外の専門家に任せた方が早いこともある。受託サービスの場合、オーサーシップの問題や、知財の問題を回避することができるので、選択肢の一つとして有効だろう。珍しい例を挙げると、特定のリガンドのターゲットを探したいといった時に、リガンドデザインからターゲットの同定までを行ってくれるサービスまで存在する(詳細はp8-9の多摩川精機の記事を参照)。
国内で提供されているバイオ系受託サービス(2015年2月現在)
サービス概略 | 実験内容詳細 |
DNA/RNAの合成 | プライマー設計 |
プライマー合成 | |
RNA合成 | |
RNAiデザイン | |
RNAi用RNAデザイン | |
長鎖DNA合成 | |
長鎖DNA合成 | |
BNA修飾オリゴ合成 | |
ベクター作製 | |
DNA/RNAの抽出 | DNA抽出 |
RNA抽出 | |
DNAシーケンス | キャピラリーシーケンス |
次世代シーケンス(GS FLX+、MiSeq、HiSeq 2500 、IonProton、PacBio RS II) | |
多型解析 | ダイレクトシーケンス |
SSCP | |
質量分析 | |
1分子蛍光 | |
薬物動態関連 | |
遺伝子検査 | ジェノタイピング |
微生物同定 | |
病原菌・感染症検査 | |
STR解析 | |
遺伝子発現解析 | カスタムアレイ作製 |
カスタムアレイ解析 | |
Affymetrixアレイ解析 | |
アジレントアレイ解析 | |
その他専用アレイ解析 | |
miRNA発現解析 | |
転写因子結合解析 | |
定量PCR | |
デジタルPCR解析 | |
HiCEP | |
メチレーション解析 | |
シングルセル解析 | |
遺伝子改変生物 | トランスジェニック生物作製 |
ノックアウト生物作製 | |
動物飼育 | |
CRISPR-Cas9システムを利用した遺伝子改変動物作製 | |
クローニング | クローニング |
ライブラリ作成 | ライブラリ作製 |
顕微鏡観察 | ISH解析 (FISH解析など) |
染色体解析 | |
TUNEL | |
特殊染色 | |
免疫組織化学染色 | |
プローブ作製 | |
標本作製 | |
電子顕微鏡観察 | |
電子顕微鏡試料作製 | |
病理検査 | 病理組織検査 |
細胞診検査 | |
画像診断 | |
タンパク質 | タンパク質発現・精製 |
酵母ツーハイブリット | |
タンパク質相互作用解析 | |
膜タンパク質機能解析 | |
プロテインチップ | |
タンパク質質量分析(MALDI-TOF MS、MALDI-TOF/ TOF、LC-MS/MS) | |
DNA抽出 | |
タンパク質精製(FG beadsなど)・純度測定 | |
タンパク質構造解析 (X線立体構造解析) | |
タンパク質発現解析 | |
二次元電気泳動解析 | |
タンパク質発現解析 リン酸化 | |
代謝産物解析 | メタボローム解析 |
ペプチド | ペプチド合成 |
ペプチドシーケンス | |
抗体作製 | モノクローナル抗体 |
ポリクローナル抗体 | |
細胞培養・株樹立 | 細胞培養 |
セルベースアッセイ | |
培養細胞株樹立 | |
iPS細胞株樹立 | |
培地合成 | |
バイオインフォマティクス | DNAシーケンス情報処理 |
プライマー設計 | |
プローブ設計 | |
SNPs解析 | |
アレイデータ解析 | |
遺伝子配列・発現予測 | |
アノテーション | |
遺伝子情報収集 | |
実験計画構築・データ解析 | |
アミノ酸配列解析 | |
タンパク質立体構造予測 | |
データベース構築 | |
文献検索・解析 | |
ソフトウェア開発 | |
遺伝子パスウェイ・ネットワーク解析 | |
糖鎖関連 | 糖鎖解析 |
糖鎖合成 | |
糖鎖固定化アレイ | |
レクチンアレイ | |
化学合成 | 低分子化合物合成 |
食品検査 | アレルゲン検査 |
GMO PCR検査 | |
GMO 抗体検査 | |
電子顕微鏡試料作製 |