再生医療研究の鍵、 スキャフォールド製品の潮流

再生医療研究の重要な要素として、種となる幹細胞、分化を誘導するサイトカイン以外に欠くことのできないものがある。それが、接着性細胞の増殖に必要なスキャフォールド素材だ。各メーカーから様々な製品が登場しているが、研究用途中心から、臨床まで見据えたものへと展開が進んでいることがわかる。その一端をご紹介したい。

多様性商品展開で広がるすそ野

ヒトES細胞株の樹立以来、ES細胞、iPS細胞の培養には、フィーダー細胞を用いた共培養が一般的であった。サイトカインの供給や、細胞が接着するための足場を提供するなど、この細胞を用いることのメリットは大きい。一方で、医療への応用を考えた時に、未同定の成分が持ち込まれるリスクがあり、安全性の観点からは実用的ではないという課題も存在する。そこで、フィーダー細胞フリーでの培養を実現するための試薬が、国内外のメーカーから数多く発表されるようになってきた。従来から研究現場でよく用いられている、マトリゲルやコラーゲン以外に、リコンビナントタンパク質、化学合成品など、様々な商品が出ているが、その一部について表1にまとめた。

また、フィーダー細胞フリー以外に、ヒト以外の成分を含まないという条件も各社が知恵をしぼって異種成分混入のリスクを抑えた製品開発を進めている領域だ。リコンビナントタンパク質や化学合成品が増えていることは、こうしたニーズの影響を受けているといえるだろう。肝心の培養実績では、やはり歴史の長いマトリゲルやコラーゲン(非リコンビナントタンパク質)に軍配が上がるが、ラミニン511E8フラグメントを製品化した株式会社ニッピのiMatrix-511や、ラミニン332を製品化した株式会社リプロセルのLaminin-5など、リコンビナントタンパク質を用いた試薬でも論文での実績が登場しており1),2)、今後もこの傾向は増加していくことだろう。

細胞接着の機序に着目した製品の登場

生体内でスキャフォールドの機能を果たしている細胞外マトリックスには、主成分であるコラーゲンに加えて、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸などいく種類もの成分が含まれ、その関連遺伝子の数は600以上あると予想されている。組織によってその成分が異なり、多様な環境を作り出す。こうした変化に富む条件の中で、細胞が細胞外マトリックスに接着する際に鍵になっている重要な因子のひとつが、インテグリンだ。歴史的にはフィブロネクチンのレセプターとして発見されてきたという経緯を持つ。機能的には、一回膜貫通型のα鎖、β鎖の二本のポリペプチド鎖で構成され、ヒトでは18種のα鎖、8種のβ鎖が存在し、24種類の組合せが同定されている。このうちの17種が細胞外マトリックスとの結合に関わり、結合タイプで分類すると、ラミニン結合型、RGD(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸)結合型、コラーゲン結合型、EMILIN結合型の4種に大別される。

この結合型に着目した製品が、近年登場し始めている。例えば、ラミニン511/521は、ラミニン型のα6β1に対する親和性が高く、ビトロネクチンはRGD型のαVβ5に対する親和性が高いことが報告されている。2014年12月に発売が発表された富士フイルム株式会社の「cellnestヒトI型コラーゲン様リコンビナントペプチド」はRGD配列を12個持ったリコンビナントタンパク質だ。HUVECなどで行った試験では、高い細胞接着率が示されており、今後が注目される。ヒトES細胞/iPS細胞では、ラミニン型が認識するα6β1、RGD型が認識するαVβ5の発現が高いことが報告されており、幹細胞系の培養でどのような実績が出てくるかも期待されるところだ。

医療の実現に向けて

再生医療に関する新法が2014年11月に施行され、医療現場への応用のニーズはこれからさらに高まっていくことが容易に予想される。研究用途で考えた時と、医療を考えた時の製造で大きく異なるのが、GMPに準拠した製品の製造ができるかどうかだろう。例えば、富士フイルムは、子会社にGMPに準拠した製造が可能なFUJIFILM Diosynth Biotechnologiesを持つ。同社のヒトI型コラーゲン様リコンビナントペプチドの製造は、Diosynth社で行われているため、基礎研究から臨床までの一気通貫の研究を行う上ではアドバンテージとして働いてくるだろう。また、まだGMPへの対応を公表していないメーカーが、受託製造でGMPに準拠した施設を持つ企業と組んで製品展開することも起こることが予想される。日本発の再生医療の本格的な実現に向けて、スキャフォールド製品の進歩にも期待したい。

1) Nakagawa M. et al. A novel efficient feeder-free culture system for the derivation of human induced pluripotent stem cells. Sci Rep. 4:3594(2014).

2) Miyazaki T. et al. Recombinant human laminin isoforms can support the undifferentiated growth of human embryonic stem cells. Biochem Biophys Res Commun. 375(1):27-32 (2008).

企業名 製品名 主成分 由 来
コーニング Matrigel® マウス基底膜マトリックス マウス肉腫
Corning® Synthemax® 完全合成の16残基ペプチド 化学合成
Corning®コラーゲンI I型コラーゲン ヒト、マウス、ウシ
ライフテクノロジーズ Geltrex® マウス基底膜マトリックス マウス肉腫
Vitronectin(VTN-N) 組換えビトロネクチン ヒト組換え体

(大腸菌で発現)

プロメガ株式会社 ビトロネクチン ヒトビトロネクチン ヒト血
新田ゼラチン株式会社 Cellmatrix Type I-A 酸抽出プタコラーゲン ブタ腱
株式会社高研 コラーゲン酸性溶液I-PC アテロコラーゲン ウシ真皮
富士フイルム株式会社 cellnest ヒトI型コラーゲン様

リコンビナントペプチド

ヒトI型コラーゲンRGD配列含有領域を

12個含むペプチド

ヒト組換え体(メタン資化酵母で発現)
株式会社ニッピ コラーゲンタイプIウシ真皮由来

(ペプシン可溶化)

ペプシンで可溶化したI型コラーゲン ウシ真皮
iMatrix-511 ラミニン-511E8フラグメント ヒト組換え体

(動物細胞で発現)

リプロセル株式会社 Laminin-5 ラミニン-332 ヒト組換え体
ベリタス株式会社

(BioLamina社)

Laminin-521 ラミニン-521 ヒト組換え体

(HEK293細胞で発現)

株式会社スリー・ディー・マトリックス PuraMatrix™ 完全合成の16残基ペプチド 化学合成

表1 各社から発売されているスキャフォールド製品

各社から出ている代表的なスキャフォールド製品の一部をまとめた。メーカーによっては、記載のもの以外の製品も取扱っているので、各社HPにて確認してほしい。