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他の生き物とのつながり、 それが微細藻類研究の未来を示す 都筑 幹夫

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都筑 幹夫 東京薬科大学 生命科学部 環境生命科学科 教授 1975年に東京大学理学部植物学科を卒業し,応用微生物研究所(現・分子細胞生物学研究所)で大学院から助教授までを過ごす。東京薬科大学に生命科学部が創設されると同時に着任し,生命と環境との関わり,とりわけ微細藻類の光合成や石灰化の研究を続けている。夢は,微細藻類の工業生産社会の創造。

researchHeritageLogo「研究遺産」は,次世代にすべき研究の成果と,それを担った研究者が研究人生を懸けて培った哲学を,未来に伝えるためのプロジェクトです。


 

約30億年前,海で生まれた最初の生物のひとつが「微細藻類」だ。「植物プランクトン」とも呼ばれる。現在,食品や医薬品,飼料への利用,環境浄化を目的とした技術への応用,バイオ燃料の生産など,産業への応用が期待される存在だ。そんな微細藻類はこれから,どんな研究がされていくのだろう。

光合成をする単細胞生物が地球を変えた

地球上に最初に誕生した藻類は,原核生物であるラン藻(シアノバクテリア)だと考えられている。約30億年前のことだ。彼らが光合成によって生み出した酸素によって海水から鉄が取り除かれ,やがて大気と海洋に酸素が満ちるようになった。

これがきっかけとなり,地球上における生命活動は活発化する。それにって地球環境もがらりと変わった。そのなかで生物は進化し,多様化してきたのだ。

東京薬科大学の都筑幹夫さんが微細藻類と出会うきっかけになったのも,この「光合成」だった。「生体の中で,CO2という化学物質が違うかたちへと変化していくこと。これがおもしろいと思ったのです」。高等植物ではなく微細藻類を選んだのは,培養液中で増える藻類たちを「水のように均一なものとして」捉えることができる,その扱いやすさからだった。

微細藻類は「おもしろくない」?

P18-19_tsuzuki-2遺伝子組換え技術によって,ある遺伝子を壊したら葉のかたちが変わったとする。それによって,「なぜ変わったのかはわからない」けれど,「その遺伝子は葉のかたちに関わる遺伝子」であるということがわかる。

こういった手法は,もちろん微細藻類でも使われてきた。「遺伝子がわかったことによって,生き物のしくみはかなり解明されてきました」と都筑さんは話す。「そういう意味では,微細藻類は単細胞でつまらないんです」。

多細胞生物では,他の細胞どうし,または他の生物との相互作用についての研究が進んでいる。培養液中に同じ種類のものだけ,という環境で飼育され研究される藻類では,まだ他の生き物との関係性にせまるような例はあまりない。しかし,他の生き物との関係を紐解いていくことによって,今まで見えていなかった微細藻類のおもしろさが見えてくる。

他の生き物との関わりから見えるもの

植物細胞内にある,光合成を行う小器官「葉緑体」は,必要な栄養を自分ではつくり出すことのできない,つまり光合成のできない真核生物が,シアノバクテリアを取り込んで同化したものとされている。シアノバクテリアには,ホストとなる真核生物の細胞分裂によって自身も繁栄できるというメリットが,ホストには,シアノバクテリアによって活動のためのエネルギー生産能がもたらされるというメリットがあった。

しかし,その「共生」への道のりは平たんではなく,互いに譲れないものをめぐって,目には見えない戦いがあったようだ。それは,現在も生息する微細藻類たちに表れている。じつは,CO2固定の結果,細胞内に貯蔵される多糖の種類が,デンプンだったりグリコーゲンだったりと,種によって異なるのだ。「シアノバクテリアの光合成の機能は取り込まれたけれど,固定したCO2を最終的にどんなかたちで貯蔵するかという点については,ホストとシアノバクテリアで戦ったみたいですね」と都筑さん。微細藻類は下等の単細胞生物だが,だからこそ,細胞レベルでの生命の歴史が見えてくる。

光合成という機能が高等植物へと引き継がれていく進化の過程で,微細藻類は他の生物との間で相互に作用し合ってきた。微細藻類「だけ」を見るなら,確かにいろいろなことがわかってしまっているのかもしれない。しかし,その情報を土台に,他の細胞や生物との相互関係を調べることができれば,まだまだまだ微細藻類から得られるものは多いだろう。

東京薬科大学 生命科学部 大学院 生命科学研究科

(文・磯貝 里子)

 

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