どろの誕生が引き起こした生命の開花 長沼 毅

どろの誕生が引き起こした生命の開花 長沼 毅

約46億年前,誕生して間もない地球の表面は,岩石が溶けたマグマの海でわれていました。それから数億年後,地球の温度が下がると,マグマは冷え固まり,大気中の水蒸気が雨となって降り注いで海をつくったのです。

長い間続いた大雨の時代はやがて陸を削り,岩石をぼろぼろにしながら土や泥をつくっていきます。このできごとは,生命にとって大きな意味がありました。なぜなら,それまで岩石の中に閉じ込められていた,マグネシウムなどの生き物にとって微量でも必要不可欠な元素が海へ溶け出し,生命活動に利用できるようになったからです。

現在の地球の生物圏はマグネシウムによって支えられているといっても過言ではありません。すべての生き物のエネルギーのもとは,食物連鎖の出発点である植物にたどりつきます。

植物は,太陽の光を浴びて光合成を行うことで,ブドウ糖などの栄養をつくり出します。光合成は,「クロロフィルa」という緑色色素が太陽光をキャッチすることから始まりますが,じつは,このクロロフィルaがうまく働くためにはマグネシウムの存在が必要不可欠です。言いえれば,もし地球上からマグネシウムがなくなったら,植物は栄養をつくることができなくなり,結果としてすべての生き物の食物連鎖が止まってしまうのです。さらに,生き物が食事をした後に,食べたものを体内で利用できるエネルギーに変換する過程でもマグネシウムが活躍しています。

このように,マグネシウムは生命の根源的な反応で重要な役割を担っています。もともとは地球の岩石の中に閉じ込められていたマグネシウム。泥がつくられていくなかで,それは生物が広く利用できる物質となり,地球の生命が一気に花開いていったのです。(文・上野 裕子)

取材協力:広島大学 大学院生物圏科学研究科
准教授 長沼 毅 さん

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