揺れに強いロボットの研究で挑む、 不安定さとの付き合い方 戸田勝善
東京海洋大学 海洋科学部系 准教授
戸田勝善さん
船上でのクレーン操作や海洋観測など、海上での作業が陸上と違うのは、そこが波で揺れる不安定な場所であることだ。甲板のような、動揺する環境下でロボットアームやクレーンロボットにどう安定した作業をさせられるか。東京海洋大学の戸田勝善准教授は、不安定な環境下で作業するロボットの制御方法について研究している。
「不確かさ」を計算する
安定しない環境下でのロボット制御は、陸上と異なる「不確かさ」を加味しなくてはならない。揺れによって遠心力やコリオリ力などの余計な力がかかるため、運動制御の大きな妨げとなる。加えて、海の上で必要となる作業においては、鉱物資源を持ち上げたり、水産資源を扱う場合など.、積載重量などの変化によりロボットの質量、慣性モーメントなどに不確かさや変動が生じることが多い。揺られながらもまっすぐに姿勢を保つ、一定の方向を向く、など海の環境で作業するロボットの多くには、こうした高度な制御が求められる。戸田さんは、センサを用いて船の揺れ具合やロボット側の状態を感知し、その情報をもとに、不確かさをロボット制御に反映させる数学的モデルを研究している。
数学と実験機の合わせ技で用途が広がる
気候予測や水産資源の持続的利用のために行われる海洋観測研究では、海の揺れに左右されない定点観測が必要となる。例えば、観測ロボットを使って海の一定深度の水温を計測したり、採水したりする場合、正確な観測値を得るためには、船の揺れを検知しながらロボットのアームが一定の深度に保たれるように制御しなくてはならない。戸田さんは数学を駆使し、ときには実験機をつくって、その課題解決にあたる。海上で観測データをモニタリングするセンサ付きのブイでは、観測したデータを通信できるように、ブイがバランスを取りながら水平に動く制御を設計し、水中で作業をするアームつきの水中ビークルでは、自分の体がアームを動かしたときの反動で動いてしまわないような制御手法を開発する。一口に制御といっても、用途や環境、ロボットの形状によって考慮すべき要素が変わるため、戸田さんは実際に実験機の開発までを手掛け、実証試験を行うのだ。
海洋を超え、夢は人類が引き起こす不安定さの解決
戸田さんの研究の応用は海の環境だけにとどまらない。質量が軽いために作業によってロボット本体が動揺しやすい衛星のメンテナンス作業やレーダー観測、液体をこぼさずに運ぶ必要がある工場用ロボットなどにも応用できる可能性がある。今後は考えたモデルをもっと実物に試せるような機会をつくっていきたいと戸田さんはいう。また、海洋を離れ、まだあまり数学が応用できていない、政治や経済、人道問題など、人が引き起こす不安定さのなかに、システム制御という枠組みから数学的な法則を見つけられないか、という夢もある。「眠っている数学から、現実の問題を解決できるものを掘り起こしていきたい」。海の産業から人類の根本的な課題まで、戸田さんの興味は尽きない。