花咲かホルモン フロリゲンの動きを追え
花はどうして咲くのでしょう? その重要なカギを握っているとされる植物ホルモン「フロリゲン」は,1937年にその存在が発見されていました。これの正体を解き明かす研究を,『someone』は2006年の創刊準備号から追いかけてきました。
葉でつくられて茎の先端に移動し花を咲かせるフロリゲン。2005年にようやく,その正体はmRNAであるという発表がなされたものの,そのわずか2年後,日本の研究者によって本当はタンパク質であることが突き止められました。その後,2011年にはそれぞれ別の場所でつくられる3つのタンパク質が順番に結合して,フロリゲンとして働くことが明らかにされたのです。
さらに2015年,奈良先端科学技術大学院大学の辻寛之さんらが,フロリゲンに関する新しい研究成果を発表しました。彼らは,遺伝子組換えによって光るフロリゲンをつくれるイネをし,植物の中でのフロリゲンのふるまいを観察できるようにしました。そして,フロリゲンが茎の先端まで移動し,やがて花となるドーム状の組織に分布する様子を可視化。さらに,花をつくるタンパク質OsMADS15が同じ場所で働くことを目で見て確認することに成功したのです。これにより,フロリゲンが司令塔となり,実行部隊のリーダーであるOsMADS15に命令を伝え,花を咲かせていることが実際の植物で確かめられました。
次々と新しい発見が続く,植物の花が咲くしくみ。フロリゲンの働きをうまくコントロールすれば,花の咲く時期を自由自在にれるはずです。さらには,その後に訪れる実りの時期をもコントロールすることで,作物の収穫時期を変えたり,収穫回数を増やしたりすることも夢物語ではなくなってきました。
研究の世界では,新しい発見によって日々真実が塗りえられていきます。世界中の誰も知らない真実を最初に見つけられることが,研究者の一番のかもしれません。 (文・中嶋 香織)