技術を極めて立ったスタートライン 加治佐 平

技術を極めて立ったスタートライン 加治佐 平

研究成果を使いたい、組み合わせたい、世の中に役立てたい。
学位取得後に大企業を経て、アカデミアに戻り、研究を続けてきた加治佐平さんは、自身が確立した技術を元に会社を設立した。
研究成果を応用したいという強い想いはどのように生まれたのか、起業に至るまでのストーリーを聞いた。

こわすからつくるへ

どうやって物質が壊れるかを明らかにすること、それが加治佐さんの博士課程時代の研究だった。
植物の細胞壁の構成要素であるセルロースを菌類が分解する仕組みを分子生物学的に解明することを目的としていた。
理学的な考え方で研究を進めるうちに、彼の中で発想の転換が起こる。

「研究対象であるセルロースなど、様々な物質を組み合わせて、工業的に価値があるものをつくれないか」と考え始めたのだ。

研究の産業化まで見据えた、「明確にかたちになって残る研究成果」を求め始めたのはこのときだ。

「もともと他の研究室でやっていることにも興味があったんですよ」というように、木材を中心に生物、物理、化学と様々な分野の研究者が研究科にいたことが、影響しているのかもしれない。専門領域とは異なる分野へのチャレンジだったが、興味のままに分野の変更をすることに躊躇はなかった。そうと決めたら、分野の壁もアカデミアと産業界の壁も跳び越える。博士取得後は、よりものづくりに近い高分子化学分野への転身をするため、大手企業の基礎研究所に就職することに決めた。

技術を世に出すパートナーとの出会い

就職先の企業ではバイオ系の研究分野に行くと思いきや、配属されたのは太陽光パネルの素子の研究開発。
同時に、新規事業を行うために新しい材料を探索するような仕事も任された。その探索中に出会ったのが、のちに自身が起業するための技術を一緒に開発することになった東京大学の坂田利弥さんだ。
坂田研究室では、DNA、タンパク質、グルコースなど多様な生体物質を特異的に検出できる技術を開発していた。シンプルなトランジスタ上に各生体物質と特異的に結合する金属などを置くことで、その物質の質量や電荷、屈折率などを測定できる。この研究は国の助成金を受け、事業化に向けて動き出し、加治佐さんは共同研究員という立場で研究室に参画することになった。
目指していた研究の産業化へのチャンスが目の前に現れたのだ。自分のアイデアで社会に役立つものをつくるため、彼はアカデミアに戻った。

1,100万人の予防医療へ貢献する

採択を受けた技術を応用し、加治佐さんが取り組むのは涙で血糖値を測定できる機械の開発だ。
糖尿病患者が血糖値を自己測定する際には、現状では痛みの伴う採血が必要になっている。
この技術を使えば、採血しなくても、涙で血糖値と相関のあるグルコースが測れるのだ。この装置で患者のQOLの向上、負担軽減を目指す。研究室に参加した当初は、事業化のサポートをしている感覚で、自分の事業、というつもりはあまりなかった。
しかし、グルコースのセンシング感度がよくないという課題に対して自身の技術を加えてその改善がされたとき、この研究は自分ごとになる。「プロジェクト全体に対しての自信と責任が生まれた」と言う。
2015年2月、株式会社PROVIGATEを設立するとき、加治佐さんは最高研究開発責任者となった。今は「自分の技術を元にした会社」と胸をはる。
バイオから高分子化学へ、アカデミアからビジネスへ、自分の居場所を変えてきた加治佐さん。「自分の技術がしっかりしていれば、他の人とチームが組める。市場のことや、経営のこと、商品化は、教わりながらでいい」。目指す世界は、全国1,100万人の糖尿病予備群への予防医療の実現。自身の技術を世の中に活かす、本当の勝負は、まだ始まったばかりだ。 (文 齊藤想聖)

加治佐 平さん プロフィール

2009年、東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号(農学)を取得。大手企業を経て、2014年より東京大学大学院工学系研究科にて共同研究員。2015年2月、株式会社PROVIGATEを設立し、最高研究開発責任者に就任。