養殖改革ベジタブル飼料 佐藤秀一
海面養殖業は水産物の安定供給を図る上で重要な役割を持つ。養殖される魚は餌によって成長の度合いや色づきが変わるため、飼料の研究・開発は商業的にも重要である。現在、養殖用の配合飼料に最もよく使われる原料は魚粉であるが、この魚粉ありきの飼料から脱却し、新しい餌を模索する研究をしているのが東京海洋大学の佐藤秀一教授である。
魚粉に頼りきっていた養殖業
近年、日本国内での養殖漁業の生産量は横ばいの推移をしているが、世界的には増加傾向にある。世界銀行が発刊した「Fish to 2030」によれば、2030年には世界の水産物の半量が養殖による生産になると予想されている。養殖に必須である餌の需要は高まる一方だ。養殖用の餌には、イワシ類やサバなどの生魚を刻んで用いる生餌があるが、餌となるイワシ類が日本近海で獲れなくなってきたことや、養殖魚の品質向上のため、現在では生餌に魚粉や魚油を混合させたモイストペレット、乾燥原料で成型したドライペレットの使用が主流である。配合飼料の原料である魚粉はペルーやチリの沿岸域で漁獲されるイワシ類やアジが原料となっている。近年1kgあたり120円であった魚粉の値段が300円まで値上がりし、養殖業者の経営を直撃した。今後、養殖漁業の世界的な需要の増加に伴い、魚粉市場の取り合いが激化することは予想に難くない。「魚粉に依存した養殖の餌を変えなくては」。そう考えた佐藤先生は新しい餌の開発に乗り出した。
植物タンパク質とタウリンで新飼料を開発
魚体を作るのに必要な栄養素はタンパク質である。そこで佐藤先生は植物性タンパク質に注目し、大豆の油かすやコーングルテンミールなど、食用油やデンプンを作るときに出される副産物を用いた新飼料の開発を行った。まず魚粉をなくし、植物性タンパク質のみの飼料を試したところ、魚の貧血や緑肝などの症状がみられた。しかし研究の結果、タウリンを添加することで症状が改善することが判明し、さらにタウリンの添加量を調整することで、従来の配合飼料と比べ魚粉割合を20%程度まで低減することに成功した。
経済性と環境負荷低減の両立を目指す
佐藤先生が次に目指すのは環境負荷低減飼料だ。これまで生餌では、食べ残しによるリンや窒素分が海に溶解し、周辺が汚染され、赤潮の発生を招いていた。現在、半乾燥させたモイストペレットや、さらに水分量の少ないドライペレットに変更され、水中で溶け出す量が減り、魚に食べられやすくなったため、環境への負荷は改善されつつあるという。さらに大豆の油かすなどに代替することで、資源の有効利用も期待される。餌を与え成長させ収穫する。畜産業では当たり前の生産活動に対し、経済性と環境負荷を考慮した佐藤先生の取り組みは新しい水産業をつくる取り組みの一つになるだろう。(文/南場 敬志)