KMLx L Venturesセッションダイジェスト

「世界初」を産業に変える。100名の起業家が刻んだL Venturesの航海規範
「世界初」の技術を生み出すことは、始まりにすぎない。
本当に難しいのは、それを顧客に届け、使われ続ける仕組みにし、社会を動かす「産業」へと育てることだ。
2026年6月14日、TAKANAWA GATEWAY Convention Centerで開催されたKnowledge Manufacturing Leaders X(KMLx)。そのベンチャーセッション「ベンチャー企業に伝えたい15の提言」には、リバネスとともに研究成果や技術の社会実装に挑んできた起業家たちが集まった。
この日のミッションは、「世界初から、産業へ。」を実現するベンチャー群のための行動規範をつくること。参加者は、自らの孤独、決断、仲間との関係性を語り合い、その実体験をもとに「L Ventures 15ヶ条」の原型を生成していった。
世界初が集まるエコシステムの、その先へ
セッションの冒頭、リバネス代表取締役 グループCEOの丸幸弘は、リバネスがベンチャー企業と活動してきた原点を振り返った。
出発点には、3つの問いがあった。
研究者の熱を、社会で活かせないか。
大学発ベンチャーとして成長したユーグレナの成功則を、再現できないか。
町工場の技術を、ベンチャーに開放できないか。
こうした仮説から、2013年、リバネス社員4名の発案によって、ベンチャーの立ち上げ段階から支援するエコシステム形成の取り組みが始まった。やがてTECH PLANTERを通じて、世界初の研究成果や技術を持つ起業家たちが集まり続ける場が生まれていく。
しかし、世界初が集まるだけでは、まだ十分ではない。
研究成果がある。会社ができる。資金が集まる。実証が進む。
それでも、顧客に届き、使われ続け、売上を生み、社会の構造を変えていかなければ、産業になったとは言えない。
リバネスが次に問うたのは、「どうすれば世界初を産業へ育てられるのか」だった。
L Venturesとは、
産業を創るリーダーたちの旅団である
丸は、リバネスと関わるベンチャー群を、単なる支援先や投資先の集合として見ていない。
それは、新たな産業を創るリーダーたちの旅団である。
一社だけでは、世界は変えきれない。
一つの技術だけでは、産業は立ち上がらない。
一人の天才だけでは、社会実装は続かない。
必要なのは、研究者、起業家、投資家、大企業、町工場、地域、海外の現場をつなぎ、それぞれの知識を組み合わせていく船団である。その船団が進むためには、共通の判断基準がいる。何を信じ、何を守り、何を捨てるのか。どのように仲間を見つけ、どのように次世代へ受け渡すのか。
この問いに対し、リバネスが一方的に答えを与えるのではなく、集まった起業家自身の実体験から抽出しようとしたのが、今回のセッションだった。

孤独と決断を、知識へ変える
会場では、各卓にタマゴ型デバイス「Hylable」が置かれた。参加者は、そのデバイスに向かって、自らの起業家としてのエピソードを語った。
テーマは4つ。
最も孤独だった瞬間。
仲間に救われた瞬間。
「これだけは譲れない」と決めた瞬間。
次世代へ残したい判断基準。
求められたのは、きれいな成功談ではない。なぜそう思ったのか。そのとき、どのような行動をとったのか。その結果、会社はどう進んだのか。起業家としての判断がにじむ、生々しい実体験だった。
録音された対話はAIによって解析され、頻出する価値観や意思決定の構造が抽出された。ただし、AIが15ヶ条を決めたわけではない。AIは、経験を構造化するための道具である。そこに意味を見いだし、行動規範として選び取るのは人間だ。
この設計こそ、KMLxが掲げる「Knowledge Manufacturing」、すなわち知識製造の現場だった。
先駆者が語った「信じる力」
クロストークには、株式会社ユーグレナ代表取締役社長の出雲充氏、株式会社Helical Fusion代表取締役CEOの田口昂哉氏、株式会社ARK代表取締役CEO グループ代表の栗原洋介氏、株式会社ElevationSpace代表取締役CEOの小林稜平氏、そして丸幸弘が登壇した。
先駆者プレゼンとして登壇した出雲氏は、ユーグレナ創業期から現在に至るまでの歩みを振り返りながら、「信じる力」について語った。
創業初期、資金も売上もなく、最も苦しかった時期。出雲氏は、丸に顧問料を支払えなくなったことがあるという。そのとき丸は、関係を終わらせるのではなく、「一緒につくった会社だから」と支援を続けた。ただし、条件があった。ユーグレナが生き残り、有名になったら、リバネスの話を200回すること。出雲氏は、その約束を今も果たし続けている。
出雲氏が強調したのは、自分に都合のよい助言だけを受け取るのではなく、自分より先を見ている人を信じ、愚直に実行する姿勢だった。
正しいか間違っているかは、その瞬間にはわからない。
それでも、この人を信じようと決めたなら、一度やってみる。
その素直さが、起業家を次のステージへ連れていく。
AIが人間の知性を超えていく時代に、人間同士の関係に何が残るのか。出雲氏は、その答えの一つが「信じること」にあると語った。
時価総額ではなく、顧客に届いた売上で語る
丸は、ディープテックベンチャーを評価する軸についても問いを投げかけた。
近年、ベンチャー企業は時価総額で語られることが多い。しかし、産業をつくったかどうかは、顧客に価値を届け、売上と利益を生み出しているかに表れる。
ユーグレナは、単にミドリムシを扱う会社ではない。ディープテックを社会に実装し、500億円規模の売上を生み出すところまで育てた、産業化の先駆者である。
「時価総額で遊ばない。産業をつくったかどうかは、お客様に届いた売上で見る」
この思想は、L Ventures 15ヶ条の原型にも反映された。世界初の技術を掲げるだけではなく、それを使えるものにし、顧客の現場に届け、使われ続ける仕組みにする。そこまで進めて初めて、技術は産業の入口に立つ。

挑戦の大きさを小さくしない
クロストークに登壇した起業家たちは、それぞれ異なる領域に挑んでいる。
Helical Fusionは、核融合を中心とした次世代エネルギー産業へ。
ARKは、「海を休ませるために、陸に海をつくる」という思想のもと、陸上養殖による新たな食糧産業へ。
ElevationSpaceは、宇宙から地球へ物資を戻す宇宙インフラ産業へ。
業界は違っても、共通しているのは、単なる製品開発ではなく、産業そのものをつくろうとしていることだ。
L Ventures 15ヶ条の原型には、「早い利益や小さな上場の声に、挑戦を縮めない」という考え方が刻まれた。
早く売上を立てること。資金調達すること。上場すること。
それらは重要である。しかし、それが目的化した瞬間に、世界初の技術が本来持っていた問いは小さくなる。
L Venturesが目指すのは、ベンチャー企業をつくることではない。
新しい産業をつくることである。
日本の中だけで考えない
出雲氏は、L Venturesに集う起業家が100億円、300億円、500億円規模の事業をつくるためには、日本国内だけで考えていては足りないと語った。
世界初の技術を産業にするには、国内での研究開発や実証だけでは届かない。顧客、地域、海外の現場に行き、生の声を聞き、そこで使われる形にまで磨き込む必要がある。
特にアジア、ASEANの現場は、次の産業をつくるうえで欠かせない。ユーグレナは現在、マレーシアでバイオ燃料関連の大型プロジェクトにも挑戦している。丸も現地に足を運び、途中で諦めず挑戦を続けるよう背中を押してきたという。
信じる力は、最後には工場や量産の現場に出る。
逃げたくなる時に、「諦めるな」と言い合える仲間を持てるか。
そこに、旅団として進む意味がある。
L Ventures 15ヶ条 β版へ
セッションで集められた参加者の実体験、丸と出雲氏のメッセージ、登壇者とのクロストークを踏まえ、同日夜のリバネス設立24周年記念パーティーでは、「L Ventures 15ヶ条 β版」が発表された。
この15ヶ条は、完成された教義ではない。今後の実践の中で磨き込まれていく可能性を持つ、L Venturesの最初の航海規範である。
そこには、しつこく生き残ること、「私」ではなく「我々」「人類」を主語にすること、仲間を応援すること、顧客と社会に届いた売上で産業を語ること、挑戦を縮めないこと、信じた人と何度でも実験して手を動かすことなど、世界初の技術を産業へ育てる起業家に必要な姿勢が込められている。
15ヶ条の全文は、本記事末尾に掲載する。
世界初を、産業へ育て続ける
1社では、産業はつくれない。
1つの技術だけでは、世界は変えきれない。
1人の起業家だけでは、社会実装は続かない。
だからこそ、旅団が必要になる。
研究者、起業家、投資家、大企業、町工場、地域、海外の現場。それぞれが持つ知識を翻訳し、同じ地図の上で語り合い、足りないものを仲間で補いながら進む。その先に、地球共生型産業の姿が見えてくる。
KMLx ベンチャーセッションは、単なるイベントではなかった。起業家たちの実体験を持ち寄り、AIで構造化し、人間の意思で行動規範へと編み上げる、知識製造の実験場だった。
世界初から、産業へ。
リバネスが24年間かけて育ててきたリーダーたちは、いま、L Venturesという旅団として次の航海に出る。その航海は、まだ始まったばかりだ。
L Ventures 15ヶ条 β版
※後日修正の可能性があります
- しつこく生き残り、世の中の課題に食らいつきましょう。
- 主語は「私」では足りません。「我々」「人類」で語れる問いを持ちましょう。
- 応援される会社を目指すなら、まず誰よりも仲間を応援しましょう。
- 産業を作ったかどうかは、お客様と社会に届いた売上で見ましょう。
- できないことを見つけたら、できる人を仲間にしましょう。
- 早い利益や小さな上場の声に、挑戦を縮めないようにしましょう。
- 技術で勝てるだけでは、産業は動きません。勝つと信じ、資金とルールを動かす覚悟を持ちましょう。
- 潰れそうな時ほど、信じてアクセルを踏める仲間を探しましょう。
- 恩はお金だけで返すものではありません。支えてくれた人の話を何度でも語りましょう。
- 世界初を、当たり前にする仕組みまで育てましょう。
- 準備が全て。準備の過程は、自分を成長させる。
- 小さい欲で上手にまとまらないようにしましょう。みんなが幸せになる大きい欲を、リーダーが見続けましょう。
- 信じた人に呼ばれたら、「何をやるんですか」の前に「行きます」と言える関係を作りましょう。
- 自分に合う助言だけを拾うのは、信じることではありません。自分より先を見る人を信じ、何度でも実験して手を動かしましょう。
- 世界初を産業へ、何度でも実験して育て続けましょう。
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