産業が変われば教育が変わる~情報革命の最中にいる子どもたち~

東京大学 山内祐平准教授

電子教科書などの出現により、電子デバイスを使った教育を進める動きは加速化されつつある。一方で、教育現場では電子デバイスを使う意味を問う声があったり、使いこなせる教育者が少なかったり、まだまだ課題は多い。はたして教育に電子デバイスは浸透していくのだろうか。学習デザインの研究を専門とし、ベネッセコーポレーションやマイクロソフトをはじめとする複数の企業と一緒に電子デバイスを用いた教育実践に挑戦している東京大学の山内祐平さんに、教育学から見たICT教育と、教育現場の課題と実践についてお話を伺った。

デジタル教材は普及できるのか

今のiPadの原型のような教材は1980年代に生まれました。最初は教師の代わりとしてコンピューターを使おうと、コンピューターで学習者に最適な応答をするシステムをつくるところから始まりました。その後、映像データベースがつくられるなど様々なプロトタイプが出てくると同時に、世界中の研究者がICTツールを使った教育の研究を始めました。わかったことは、ICTツールというのはどんな学習者にも万能ではない、ということです。大半の人は何かのツールを使おうと思ったときに、たとえばボタンを1つずつ押す操作があったとしたら、順番に事に当たって途中であきらめてしまう人が多い。特に、自分で試行錯誤してみる経験が少ない小中学生では難しいですね。教材が本当に機能するかどうかは、学習者のICTリテラシーに依存してしまうのです。

また、指導者から見た課題を、電子黒板を例にしてお話しします。電子黒板はイギリスでは普及しましたが、アメリカでは普及しなかったのです。なぜかと言うと、イギリスではもともと子どもたちが黒板の周りに集まって床に座り、先生の話を聴くという授業スタイルがあった。このスタイルだと、先生に当てられたら前に出て行って書く、話す、というインタラクションが非常に多くなります。一方でアメリカは、日本も同じスタイルだと思いますが、机について座っているので教師と生徒との距離が遠い。イギリスでは従来の黒板が電子黒板に置き換わっても教師と生徒とのインタラクションの中で様々な使い方ができますが、アメリカや日本ではなかなかそうはいかないのです。教材にしても、電子黒板のような教育のシステムにしても、従来の文化とどうすり合わせていくかを考えないと、実際に使われるようにはならないですね。デバイスが入るだけではだめで、教師が指導する文脈の中でデバイスを使って何を育てていくか。教師1人1人のアナログな使い方の部分が重要になってきます。それは今後、いろんな実証を通して浸透していく可能性はあります。

我々は、産業革命と同じ変革期を体験している

ICTツールが教育に入る意味は2つあります。その1つは効率化です。ビジュアルイメージなどを駆使することができるICTツールを正しく使うと、確かに実験上は10~20%成績が上がるという結果が出ています。デジタル化による効率化を実現するためには、デジタル教材が普及する必要があります。その普及によって様々な教育コンテンツが提供できるようになり、利用者はわからない部分をお互いに情報をシェアして助け合うことができます。これが、学習効率を高めるのです。もう1つの意味は、今、世界中の教育関係者の間で提唱されている「21世紀型スキル*」という考え方において、21世紀に活躍できる人物像はICTスキルが前提となっているということがいえます。米国では、今の小学生の65%は10年後にこれまでに存在しなかったような職業に就くだろうといわれています。目まぐるしい速度で変化し続ける21世紀の社会において、従来から必要とされてきた標準的なスキルだけでなく、より多くの情報をもとに、その変化に柔軟に対応できる力―それが21世紀型スキルです。今、私たちはビジネスや研究をする上でICTツールを使わないスタイルは考えられません。であれば新しい時代に生きる次世代を育てる21世紀型スキルの教育はICTを使いこなすことが前提になくてはならないのです。

我々は今、産業革命と同じ規模の変革期にあると言っていいでしょう。第一幕は1995年にインターネットが登場した頃、そして第二幕は2005年、みんながネットにつながる時代になってきた頃。これらは、たとえて言うなら蒸気機関ができたのと同じくらいの変化だと思います。これからが大変な変革の時代で、産業革命では蒸気機関を使って工業が生まれ、農業から工場への仕事に変わった。これから私たちは農業から工業に仕事が変化したように、どんどん新しい仕事を生み出していくのです。産業構造の変化に伴って教育が変化していくことは必然で、その変革の1つがICTを用いた教育なのです。

電子デバイスはインフラから人と人がつながる窓へ

今、私たちが東京大学の中で開講しているB E A T ( ベネッセ先端教育技術科学講座)では、Facebookを使って高校生が大学生や社会人とのコミュニケーションをとって進路相談ができる「Socla」というプロジェクトを行っています。今の社会では、人と人がつながることによって変化が生まれています。ですので、今後は電子デバイスもインフラとしての位置づけより、それによって誰とつながるかが重要となってくる時代になるのです。そのときに、今までにつながることのなかった人とつながることが、ICTを教育に導入する付加価値となっていくと思います。私たちのプロジェクトでは最初、電子デバイスでレポートを書かせるなど簡単なことから始めて、デバイスを使う習慣を徐々に浸透させていきました。韓国がICT教育の先進国といわれていますが、10年かかって徐々にパイロットスクールを増やしてきた実績があります。日本でも同じくらいの長期的な視点を持つ必要がありますが、学習とは社会的なものである以上、社会的な活動に組み込まれるためにも、ICTツールは必須になっていくでしょう。

私たちの研究室には心理学をやってきた人も、工学系でシステムを組んでいた人もいます。何かしら教育に課題意識を持っている人たちが集まり、研究や新しい教育システムの開発に取り組んでいます。人と人が情報でつながるときに学習がそこに埋め込まれる仕組みをどうつくるのか、これからの社会で大事になってくるこの課題に関心があって、情報スキルを持っている人は、これから、教育研究の世界でも歓迎されるでしょう。