世界のゲームを牽引する開発チームの今
新作発表ごとに話題を呼ぶステルスアクションゲーム『METAL GEAR SOLID(MGS)』。次々と現れる敵を倒しながら進む他のゲームとは異なり、「いかに敵に見つからず、戦わずに進むか」に主眼を置いた本シリーズを生み出す小島プロダクションは、その世界観を表現するために独自の技術体系を作り上げている。その集大成のシステム「FOXエンジン」の開発チームでテクニカルディレクションを担当する髙部邦夫さんに、プロダクションが目指す方向性と、そこで活躍できる人材像についてお話を伺った。
株式会社コナミデジタルエンタテインメント 小島プロダクション制作部 髙部邦夫さん
東京工芸大学工学部電子情報工学科専攻。卒業後、1997 年コナミ入社、メタルギアソリッドシリーズの制作に携わる。現在はゲームエンジン「FOX エンジン」の制作に従事。
動かせる映画を目指して
「世界に太刀打ちできるタイトルを作る。世の中になかった新しいエンターテイメントを提供したい」と語る髙部さん。目指すのは「映画」の映像表現だ。兵士が吐く白い息から周りの寒さを想像し、揺れる草花を見てそこに吹く風を感じる。私たちが映像から受け取る情報は、私たち自身の経験や知識と融合し、実際に記述されたデータ以上の世界を頭の中に作り上げていく。1990年台、ゲーム媒体が大容量の光学ディスクになったときから多くのゲームに取り入れられた、CGによる映像表現。その中で小島プロダクション
が当初からこだわるのは、あらかじめ作られたものを再生するプリレンダリングムービーでなく、キャラクターの骨格やポリゴンの位置情報などを元に動的に映像を生成するリアルタイムレンダリングだ。1998年にMGSが発売された当初はまだ粗さが目立ったリアルタイム映像は、ハードウェアの進歩により「動かせる映画」に近づいてきた。
表現の土台を物理法則でつくる
リアリティを追求するためには、以前は数十人規模だった制作チームの中で、「職人」的な開発者の感覚が重要な役割を担っていた。しかし、今やチームは数百人規模となった。グラフィックスやデザイン、ライティング(光の調整)、動きの設計など様々な専門スタッフで作り上げる体制となっている中、表現の「良さ」に対する基準のひとつとして、物理法則を重要視している。「物の色合いがどのように見えるかは、ベースの素材が持つ色と反射率に対して、どのような強さの光がどの角度から当たるかによって決まります」。それをゲームの中でもルールとして組み込むことで、リアルな映像を作れるようにするのだ。
次世代のゲーム開発者は、研究者の中にいる
次のゲームを生み出すための土台となるエンジン開発に、専門知識に秀でた人材が活躍する場があると話す髙部さん。自身は大学時代、ゲームとは関係のない画像認識に関わる研究をしていた。ただ個人としてゲームやゲームプログラミングが好きで、ハードウェアがどう動くかを意識してMSX(1980年代に広まったPC規格)をいじっていたという。今はチームの中で、ハードウェアの性能を引き出すためにどうGPU(Graphics Processing Unit) を使いこなすかに注力している。しかし市販のコンピュータが高性能化した今、若い人材はどちらかといえばソフトウェアに強い人が多いと感じているという。「プログラミングには、ハードウェアのことがわかっているというのが重要な要素になります。これからはGPUを描画以外の計算にも使うという方式が主流になっていきます。大量データを効率よく処理する技術に長けた人材は、ゲーム業界でも活躍できるはずです」。新しい機種が出るたびに、今よりも高度な表現が可能になるこの業界。「研究のような考えで、いかに新しいことができるかを模索できる人材がいると嬉しいですね」。 (文 西山哲史)