国内で進む、藻類燃料の研究開発

国内で進む、藻類燃料の研究開発

藻類 ——。

 この生き物が、酸素発生型光合成というメカニズムを取り入れたことは、生命史上において最大のインパクトと言ってよいだろう。酸素の利用によって飛躍的にエネルギー効率を高めることができた生命は、その後爆発的な進化を遂げ、我々人類までその恩恵に預かってきた。また、食料・機能性素材としても藻類は注目され、現代社会の各産業においても欠かせない存在となりつつある。そして今、「日本を産油国に」という言葉も飛び出し、国内では藻類オイルを代替エネルギーとして活用する研究が進められている。藻類は、人類の未来にも大きなインパクトとなりうるのか。そして、日本はその立役者となりうるのか。基礎から研究動向までを見通した。

 

多岐にわたる「藻類」とその貢献

藻類は様々な産業で、すでに利用されている。藻類から作られるアルギン酸や寒天、ヨウ素などは、工業材料として利用されている。食用としては、海藻類や微細藻類が古くから利用されてきているが、近年はクロレラやスピルリナ、ドナリエラ、ユーグレナなど、健康食品や機能性食品としても1つの産業分野を形成する。また、パラミロン、色素など抽出物の利用も盛んで、アスタキサンチンや、藻類レクチン、フコキサンチン、フコイダン、フロロタンニンなどは、医薬関連物質としての期待もある(図)。

現在、藻類は約4万種が知られるが、未知のものを含めると、地球上には30万種以上、多ければ1,000万種以上が存在していると考えられている。分類や生理については、日々研究が進んでおり、もしこれらの中から有用な機能や物質をもつ新規藻類が見つかれば、我々の社会を大きく発展させる可能性がある。つまり、藻類研究は、研究界におけるひとつのフロンティア分野だといえるだろう。

バイオ燃料として注目される、藻類産生オイル

現在最も熱い視線を浴びる用途は、安全保障上、国家にとって最重要課題であるエネルギーだ。数十年前から、米国や日本では微細藻類からエネルギーを作る構想があったが、コスト高から実用化の前段階に留まっていた。しかし、2007年、当時の米国大統領ジョージ・W・ブッシュ氏は、年頭演説において「Twenty in Ten」、すなわち、今後10年でガソリン消費を20%削減することを目指し、その一環として「2017 年までに年間350億ガロンの再生可能燃料・代替燃料使用を義務付ける基準を設定する」と発表した。これを受けて米国内では藻類関連ベンチャーへの投資が活発化した。国内では「日本を産油国に」をスローガンに掲げている筑波大学の渡邉信教授らによるプロジェクトが立ち上がり、藻類による新エネルギー創出に向け、国内外での研究開発が進んでいる。

代表的なオイル産生藻類として知られるのが、ボトリオコッカス、Pseudochoricystis、ユーグレナなどだろう。ボトリオコッカスの1種であるBotryococcus brauniiは、そもそも化石燃料として知られるオイルシェールを生産したとされ、同種のオイル含量は乾重量の60%に達することもある。オイルの産生メカニズムについては研究途上だが、渡邉信教授らのグループにおいては、オイルの増産に向けた研究が進められている。ボトリオコッカスが主に重油相当の炭素鎖長である炭化水素を分泌するのに対し、軽油相当の炭化水素を蓄積するのは、Pseudochoricystis(記載論文がなく仮称)である。この中には、ボトリオコッカスよりも生育の早い株も見出されている。また、食用として注目されているユーグレナも、オイルを産生する藻類として注目されており、嫌気・暗条件でワックスエステルを体内に蓄積する。これらの藻類によるバイオ燃料の開発には、デンソー、IHIなどの大手企業が研究開発に投資・参画している。新興ベンチャーとしては食品利用で成功した株式会社ユーグレナが奮闘、2012年12月には、マザーズ市場に上場を果たし、今後の研究開発が期待される。

 

高コストの打破に向けた国内の研究開発

これまでの最大のネックであった「高コスト」への対応として、国内の研究動向はどうなっているのだろうか。

筑波大学の渡邉教授・彼谷教授のグループは、同グループで開発されたボトリオコッカスに加えて、沖縄県でスクリーニングされたラビリンチュラ類に属する従属栄養藻類オーランチオキトリウムを組み合わせたハイブリッドシステムを構築することにより、この解決に乗り出すプロジェクトを推進している。このシステムでは、有機排水を1次処理水としてオーランチオキトリウムを培養してオイルを産生させるとともに、その2次処理水をボトリオコッカスの培養・オイル産生に利用する。この組み合わせで、単位面積あたりのオイル生産能力を10倍にしようというのがプロジェクトの狙いだ。

また、ネオ・モルガン研究所、IHI、ジーン・アンド・ジーンテクノロジーが神戸大学の榎本平教授と共同で研究を進めるボトリオコッカスの1種「榎本藻(えのもとも)」は、その増殖を爆発的に速められたことを確認している。同グループは、藻類に育種技術を取り入れ、そのスピードを速める独自技術を活かして参入しており、生産コストを現在の10分の1程度まで抑えることが狙いだ。今後、その技術は、榎本藻に限らず藻類による産業発展を下支えする可能性をもっているだろう。

ユーグレナについては、株式会社ユーグレナが進めるプロジェクトが有力だ。同社のプレスリリースによると、より高い光合成活性をもちワックスエステルの高生産が可能な“スーパーユーグレナ”の作出のための基盤技術の確立に向け、研究を開始している。

総じて、日本国内の研究開発動向は、主に藻類そのものへの育種をメインとして、藻類の組み合わせによるシステム構築を主眼として進められている。国土が狭く、その大部分が温帯に属する日本国内で、どのようなかたちで藻類オイルを新エネルギーの創出につなげるのか。そして、この技術をいかに世界的に貢献できるモデルにできるか。その大勢の視野が、藻類によって起こるかもしれない「インパクト」のファクターとなるだろう。