特集:日本の水産業を変える大学の知

特集:日本の水産業を変える大学の知

 日本の水産業は、生産量が減少しているのにも関わらず、魚価が低迷している。結果として経営の悪化を招き、次世代の担い手が減り、漁村の高齢化が進んでいる。一方で、世界では水産業は人口増加を支える成長産業として捉えられている。このような中、日本の水産研究はどのような役割を果たすのだろうか。その可能性を探る。

水産業に見る「生産」「加工」「流通」研究最前線

水産業に求められる大学の知

 1980年に発刊された能勢幸雄氏の「漁業学」によれば、漁業の「漁」という言葉には2つの意があるという。ある辞典をひけば「魚をむさぼるようにとる」意が記載されている一方で、他の辞典には「計画してとる」と記載されている。天然の資源から魚を採る漁業と、育てて計画的に採る資源管理の概念、養殖の両方の意が「漁業」という言葉に35年も前から込められていたことは、実に興味深い。現在、年間2,000トンの漁獲があったニホンウナギはレッドリスト1Bへ加えられ、クロマグロの資源保護は国際的な課題の一つになっている。地域の漁業者は高齢化が進み、次世代の担い手の減少も顕著だ。一方で海外の水産物の生産量は増加し続け、相対的に国際的な競争力を失いつつある日本の水産業。これらの課題を解決するために、今、大学の知が求められている。

生産だけではなく、加工流通までを視野に入れる

 水産業は他の一次産業と同様、大きく「生産」「加工」「流通」「販売」の4つの工程を経ているが、それぞれにおいてさらなる研究を進める余地がある。「生産」では、先に述べた持続可能な水産業とするための資源管理手法が求められるほか、これからますます生産量を増加させるであろう養殖業の技術的な発展は重要だ。「加工」においては、水産加工機器の進化による歩留まりの向上はもちろん、未利用資源の活用は新たな水産資源を確保できる可能性がある。また、前号でも掲載した冷凍技術の発展、国際的な物流システムの構築は「流通」における技術躍進の一端を担っていると言える。

水産研究で拓く未来

 今号の特集では、「生産」「加工」「流通」の3つの大学の知を取材した。次ページ以降の事例紹介では、「生産」での取り組みとして新飼料の開発、「加工」では未利用資源の商品化、「流通」での取り組みとしてバイオサーモメーターの開発について紹介し、水産研究がどのような未来を拓くかを探る。

特集:日本の水産業を変える大学の知

(文/南場敬志)