大学の研究と技術が日本の水産業を変える

ここまでに生産、流通、加工における大学発の研究成果と可能性、発展性を述べていきた。本稿ではそれらをまとめるとともに、この先の日本の水産研究がどのように発展していくかを考えたい。

水産研究は世界と技術力で競う

 本特集では「生産」「加工」「流通」の3つの工程に着目し、それぞれの水産研究を紹介した。これら大学から生み出される知によって、日本の水産業が世界に対し競争力を持てる可能性を秘めていると考えられる。

 日本国内での養殖業の生産量は横ばいの傾向であり、捕獲漁業の減少が全体の生産量減少へ繋がっている。日本各地にある漁村の高齢化や、資源状態の悪化による漁家経営の圧迫など、課題の多様化、複雑化により解決できる手段に決めてが無いことが原因として考えられる。今後、課題を一つずつ解決していく他になく、長期的な計画が必要であろう。その中で、生産した商品の付加価値を高めるという視点においては、バイオサーモメーターは水産物の国際競争力の構築へ有効であると考えられる。また既存の漁業に対して、新たな資源価値のある生物を発掘する未利用資源の開発は、日本の地域漁業を支える一手になる。解決の手法を重ねていくことが肝要である。

 また、世界食糧機構(FAO)が2014年に発刊した 「State of the World’s Fisheries and Aquaculture」に
よれば、世界的な人口増加に伴い水産物が果たす役割は高まっているが、現在の捕獲漁業では全体の約3割が乱獲状態にあること、養殖業の果たす役割は重大であると報告している。世界的に養殖業による生産量が急増しており、水産業は成長産業の一つとされている。このような中、日本の水産研究によって培われた養殖技術は、世界の水産業に対してプレゼンスを発揮するチャンスがある。紹介した環境への負荷が少ない養殖飼料の開発についても、世界で増大する養殖業が直面する環境問題に対し、有効な手法の一つとなりうる。

 このように、国内の課題解決につながり、世界的な水産技術の需要の高まりに応えるため、日本の大学から生み出される水産研究の知が求められている。

水産の知を農林水産の知へ

 農業や畜産業など、一次産業は共通の課題を持つことが多い。これらの水産研究により創り出された知は、水産業のみならず、農業や畜産業への応用につながると考えられる。バイオサーモメーターでの農作物への応用事例のように、農林水産学間での知の共有はますます重要となるだろう。TPPによる多国間の競争激化を控える今こそ、大学発の知で農林水産業の課題を解決できるだろう。(文/南場敬志)