科学技術と社会の接点を考える 隅藏 康一

科学技術と社会の接点を考える 隅藏 康一

隅藏 康一 准教授 政策研究大学院大学 ( 専門分野・知的財産権)

中央・地方の官庁や企業から派遣される学生、世界各地から集まる留学生。東京・六本木の政策研究大学院大学には学生、教員を問わず、様々な立場、年齢の人々が集まる。政策研究大学院大学は、多くの視点で国の施策が検証される現場であるとともに、新たな政策を生み出す場所でもある。ここを拠点に、隅藏准教授は科学技術政策に切り込む。

専門分野を持つことで社会全体を捉える

「政策の全体を捉えるためには、軸となる専門分野を作ることが必要ではないか」。博士( 工学) の学位を有し、バイオテクノロジー分野で実際に研究経験を積んできたからこそ、現場の視点で科学技術政策の重要性が見えてくる。 隅藏准教授が科学と社会のつながりを意識し始めたのは、高校の学園祭で環境問題について発表したのがきっかけだ。環境問題は科学的な話に加え、国内外の複合的な要因で起こる地球規模の問題。それを調べたことで興味を持ち始めた。東京大学理科Ⅰ類へ進学、3年生になる前に専攻の選択を迫られたとき、自分は何がしたいのかを本気で考えた。漠然とだが「科学技術政策」というキーワードが浮かんできたのだ。科学技術政策は科学だけでなく、法律、経済、国際情勢などとのつながりの中で策定される。高校の時に意識した科学と社会のつながりがここに見えた。 しかし、科学技術政策で最も必要になってくるのは科学の専門分野と、そこを中心に新しい視点を持つこと。それを知った隅藏准教授はすぐに科学技術政策の専門に入らず、まず、科学の視点を養うために興味を持っていた分子生物学を専攻することにした。

活躍の場所を模索する

博士課程への入学後、研究活動と平行して、科学技術と社会の接点で働くにはどんな方法があるのかを具体的に考え行動するようになった。「博士課程修了後に東京大学先端研知的財産部門のポストを得たのは偶然です。けれども、可能性が多そうなところに行かなければ偶然を掴むこともできません」現在のポストを得るまでにはたくさんの努力の跡が見える。研究の傍ら、視野を広げ、たくさんの情報を得ようと、科学技術政策を研究する大学教授に話しを聞きに行き、シンクタンクの会社説明会にも参加した。記事を通して科学技術の成果を社会に還元する記者にも興味を持ち、科学系出版社のOBを訪問したこともある。 様々な立場の人に話を聞くと同時に、自身の研究で特許出願をしたことがきっかけで特許、さらには知的財産へと焦点が絞られてきた。知的財産は、研究成果をどのように保護し、活用していくかという現在の産業政策の中でも中枢となる。人文社会科学系学問とのつながりも深く、科学技術と社会をつなげる研究に、隅藏准教授は自分の活躍の場所を見つけ出したのだ。

理系人材を育て政策を創る

もっと多くの理系人材がこの分野に参加することで、科学技術を取り巻く環境は間違いなく改善する。隅藏准教授は、誰もが参加できる知的財産の研究会( 知的財産マネジメント研究会:Smips ) を毎月主催し、科学技術政策研究への「入り口」を作り次世代の人材を育成する。
「科学技術に興味がある」といってもその興味は人それぞれだ。競争の中で誰よりも早く成果を出すことに関心がある人、生まれた成果をどのように利用するかに興味を持つ人。隅藏准教授の興味は、科学技術の成果を生み出し、活用するために必要な制度や政策を考えることにある。これを追求した結果が、国の施策を決める政策提言となっていく。「産学の現場にいる人が活用し、実際に使う人から評価されるガイドラインを作りたい」。国内やOECD加盟国間の遺伝子ライセンス関連ガイドラインの策定に際し、こうした想いを持って携わってきた。新しい視点で科学技術と社会の接点を考える。隅藏准教授は今も先陣を切って新しい提言を続ける。